崇高な「政治理念」より単純な「敵・味方」が政治的な考えの背後に潜んでいる

本当に「推し政党や推し政治家の変化」で脳まで変わるのか?
答えを得るため研究者たちはまず2019年の春、イスラエルの総選挙の少し前に、政治に関心の高い若い大人たちを集めて、脳の活動を測るMRIのトンネルに入ってもらいます。
参加者は合計41人で、彼らには、右派・左派・中道の政党CMや政治家の演説など6本の政治動画と、政治とは関係ない1本の中立的なミニドキュメンタリーなど(他短いもの1本)を見てもらいました。
政治動画の方には、どれもかなり強い主張や「自分たちの味方 vs あいつら」という対立構図が盛り込まれていました。
一方で、中立動画は、古いバスを自宅に改造して暮らしている男性を紹介する、のどかな内容です。
そして参加者に対しては「動画の主張にどれくらい賛成した?」や「この表現は民主主義にとって危険だと思う?」そしてそれぞれの政治家に対して「信頼できるか」「誇りに思うか」「腹が立つか」「嫌悪感があるか」など、細かな感情をたずねる合計で100以上の質問を行いました。
これにより各個人の脳活動データと「この政党をどう見ているのか」「誰を味方だと感じているのか」が、かなり細かく数値として記録されました。
そしてこれとほぼ同じことを、政治的大騒動をはさんだ2年半後の2021年に、もう一度やり直します。
また今回はそれに加えて、「2019年に比べて、この政党への意見はどれくらい変わったと思う?」といった“振り返り”の質問も追加されました。
こうして研究者たちは、「2年半でどれくらい見方が変わったか」と「その間に脳の反応がどれくらい変わったか」を、同じ人についてペアでそろえることに成功したのです。
では、そのあいだに脳の中では何が起きていたのでしょうか。
ここからが、いよいよ脳科学の出番です。
研究者たちは、脳全体を細かい立方体の点に区切り、それぞれの点について「2019年にこの動画を見たときの活動の波」と「2021年に同じ動画を見たときの活動の波」を比べました。
その結果、変化が最も小さかったのは後頭葉などの視覚野で、画面の明るさや動きといった「見た目そのもの」を処理する領域でした。
つまり、カメラマンのように映像を受け取る担当の脳は、2年半たってもほぼ同じ反応をしていたことになります。
一方で、変化が大きかったのは、扁桃体、海馬、線条体など、感情・記憶・報酬や「自分ごととしてどれくらい感じるか」に関わる領域でした。
言い換えれば、画面の情報をどう味つけし、どんな物語として解釈するかを決める“脚本・演出チーム”の脳が、大きく組み替わっていたのです。
最後に研究者たちは、「脳の変わり度」と「見方の変わり度」を対応させて調べました。
21人×政治動画6本と中立動画1本=147通りの組み合わせについて、それぞれの脳の区画ごとに、変化量とスコアの関連を計算していったのです。
その結果、「敵・味方の評価の変化」と結びついた区画は1133か所もありました。
それに対して、「政治理念の変化」と結びついた区画は、わずか9か所にとどまりました。
この差はかなり極端です。
(※なお、政治理念と敵味方判定を両方まとめた「総合的な見方の変化」と有意に結びついた脳の区画は703か所でした)
ある意味でこの結果は、「政治ニュースを見ているとき、脳がいちばん敏感に追いかけているのは『何を主張しているか』より『この人は自分側かどうか』なのかもしれない」という、少し怖くて、でもどこか納得してしまう事実を示しています。























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