推し政党が変わると脳はこう動く――政治脳が見ているのは政治理念ではなく単純な『敵味方』だった
推し政党が変わると脳はこう動く――政治脳が見ているのは政治理念ではなく単純な『敵味方』だった / Credit:Canva
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推し政党が変わると脳はこう動く――政治脳が見ているのは政治理念ではなく単純な『敵味方』だった (2/3)

2026.02.10 20:00:51 Tuesday

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崇高な「政治理念」より単純な「敵・味方」が政治的な考えの背後に潜んでいる

崇高な「政治理念」より単純な「敵・味方」が政治的な考えの背後に潜んでいる
崇高な「政治理念」より単純な「敵・味方」が政治的な考えの背後に潜んでいる / この図はは、「2019年に政治動画を見たとき」と「2年半後の2021年に同じ政治動画を見たとき」で、脳の反応がどれくらい変わってしまったかを、脳の地図の上に色で描いたものです。赤は「変化が小さいグループ(下から3分の1)」、オレンジは「中くらい」、黄色は「変化が大きいグループ(上から3分の1)」を表しています。つまり、赤っぽいところは2回ともほぼ同じ反応をしていた場所で、黄色のところは「同じ政治動画なのに、2年半後にはなかば別物として処理されていた」ような場所だと考えることができます。さらに、その上から黒い線で囲まれている部分がありますが、ここは「政治動画を見ているときの変化量」が、「バスを家にした人の中立ドキュメンタリー」を見ているときの変化量よりも有意に大きかった場所だけを、統計的にきびしい基準で選び出して輪郭線にしたものです。言いかえると、黒い線に囲まれた領域は「単に年をとったから変わった」のではなく、「政治的な映像に対する反応が、とくに強く書き換えられていた可能性が高い場所」です。図全体を見ると、後頭部の視覚野など、画面の明るさや動きをそのまま処理している部分は赤〜オレンジが多く、変化は小さめです。その一方で、脳の真ん中やや奥にある扁桃体や海馬、線条体付近、それに前頭葉の一部など、「感情や記憶、ごほうび計算」に関わる領域のあたりでは黄色が目立ち、黒い線も広くかかっています。Credit:Changes in political attitudes are associated with changes in neural responses to political content

本当に「推し政党や推し政治家の変化」で脳まで変わるのか?

答えを得るため研究者たちはまず2019年の春、イスラエルの総選挙の少し前に、政治に関心の高い若い大人たちを集めて、脳の活動を測るMRIのトンネルに入ってもらいます。

参加者は合計41人で、彼らには、右派・左派・中道の政党CMや政治家の演説など6本の政治動画と、政治とは関係ない1本の中立的なミニドキュメンタリーなど(他短いもの1本)を見てもらいました。

政治動画の方には、どれもかなり強い主張や「自分たちの味方 vs あいつら」という対立構図が盛り込まれていました。

一方で、中立動画は、古いバスを自宅に改造して暮らしている男性を紹介する、のどかな内容です。

そして参加者に対しては「動画の主張にどれくらい賛成した?」や「この表現は民主主義にとって危険だと思う?」そしてそれぞれの政治家に対して「信頼できるか」「誇りに思うか」「腹が立つか」「嫌悪感があるか」など、細かな感情をたずねる合計で100以上の質問を行いました。

これにより各個人の脳活動データと「この政党をどう見ているのか」「誰を味方だと感じているのか」が、かなり細かく数値として記録されました。

そしてこれとほぼ同じことを、政治的大騒動をはさんだ2年半後の2021年に、もう一度やり直します。

また今回はそれに加えて、「2019年に比べて、この政党への意見はどれくらい変わったと思う?」といった“振り返り”の質問も追加されました。

こうして研究者たちは、「2年半でどれくらい見方が変わったか」と「その間に脳の反応がどれくらい変わったか」を、同じ人についてペアでそろえることに成功したのです。

では、そのあいだに脳の中では何が起きていたのでしょうか。

ここからが、いよいよ脳科学の出番です。

研究者たちは、脳全体を細かい立方体の点に区切り、それぞれの点について「2019年にこの動画を見たときの活動の波」と「2021年に同じ動画を見たときの活動の波」を比べました。

その結果、変化が最も小さかったのは後頭葉などの視覚野で、画面の明るさや動きといった「見た目そのもの」を処理する領域でした。

つまり、カメラマンのように映像を受け取る担当の脳は、2年半たってもほぼ同じ反応をしていたことになります。

一方で、変化が大きかったのは、扁桃体、海馬、線条体など、感情・記憶・報酬や「自分ごととしてどれくらい感じるか」に関わる領域でした。

言い換えれば、画面の情報をどう味つけし、どんな物語として解釈するかを決める“脚本・演出チーム”の脳が、大きく組み替わっていたのです。

最後に研究者たちは、「脳の変わり度」と「見方の変わり度」を対応させて調べました。

21人×政治動画6本と中立動画1本=147通りの組み合わせについて、それぞれの脳の区画ごとに、変化量とスコアの関連を計算していったのです。

その結果、「敵・味方の評価の変化」と結びついた区画は1133か所もありました。

それに対して、「政治理念の変化」と結びついた区画は、わずか9か所にとどまりました。

この差はかなり極端です。

(※なお、政治理念と敵味方判定を両方まとめた「総合的な見方の変化」と有意に結びついた脳の区画は703か所でした)

ある意味でこの結果は、「政治ニュースを見ているとき、脳がいちばん敏感に追いかけているのは『何を主張しているか』より『この人は自分側かどうか』なのかもしれない」という、少し怖くて、でもどこか納得してしまう事実を示しています。

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