脳オルガノイドに「棒立てゲーム」を学習させることに成功
脳オルガノイドに「棒立てゲーム」を学習させることに成功 / Credit:川勝康弘
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脳オルガノイドに「棒立てゲーム」を学習させることに成功

2026.02.25 19:00:57 Wednesday

アメリカ合衆国のカリフォルニア大学サンタクルーズ校(UC Santa Cruz)で行われた研究によって、シャーレの中で育てたマウスの人工培養脳(脳オルガノイド)が、学習によってコンピュータ上の「棒立てゲーム」の成績を上達させられることが示されました。

研究では、脳オルガノイドの学習成績を見ながらAIコーチが「愛の鞭(電気刺激)」を振るっており、その結果、AIコーチにしごかれた脳オルガノイドは棒を長く立て続けられる割合が飛躍的に増加したのです。

さらに研究者たちは神経同士のつなぎの一部を止める薬を加えると、この“上達”がほぼ消え、薬を洗い流すとふたたび戻ることも確かめています。

これは、脳オルガノイドの中で起きている変化が、神経接続に伴う学習プロセスであることを示唆します。

もしこの成果を応用できれば、ある学習がどんな神経の接続を作るのかや、神経疾患で学習能力がどのように壊れるのかを、試験管の中でテストできるようになるかもしれません。

私たちは、目も耳も体もない、小さなミニ脳がゲームの「プレイヤー」になっていく現実を、どう受け止めるべきなのでしょうか。

研究内容の詳細は、2026年2月19日に『Cell Reports』にて公開されました。

Goal-directed learning in cortical organoids https://doi.org/10.1016/j.celrep.2026.116984

なぜ人工培養脳に棒立てゲームをさせたのか?

なぜ人工培養脳に棒立てゲームをさせたのか?
なぜ人工培養脳に棒立てゲームをさせたのか? / 棒倒しゲーム/Credit:Goal-directed learning in cortical organoids

手のひらの上で定規をまっすぐ立ててみると、意外と難しいことに気づきます。

少し傾いたと思ったら、あわてて手を動かして立て直す。

そのくり返しで、だんだんコツをつかんでいきます。

実はこの棒立て問題(倒立振子:とうりつしんし)は、工学ではれっきとした研究テーマで、ロボットやAIの性能チェックとしてよく使われます。

そんな制御問題を、人間ではなく「人工培養された」に解かせてみるとどうなるでしょうか。

脳は、同じ大きさのコンピュータに比べて圧倒的に少ない電力で動き、たった1個のニューロン(神経細胞)を真似るだけでも、深層学習の層がいくつも必要になると指摘されています。

そこで近年注目されているのが、幹細胞から育てた人工培養脳「脳オルガノイド」です。

この脳オルガノイドは上手く育てると、ゴマ粒より少し大きい程度の塊の中に、興奮するタイプとブレーキ役のニューロンに加え、それらを支える星形の細胞(グリア)などが層状に並び、初期の大脳皮質のような回路網をつくります。

しかしこれまでの「脳オルガノイドに仕事をさせる」実験の多くは、画像のパターン認識や単純な反応の測定にとどまり、「ある目標に向かって上達していく様子」を調べるにはあまり向いていませんでした。

もし脳オルガノイドが、何度も失敗しながら棒を倒れにくくしていけるなら、それは「目と耳と体と報酬ホルモンをすべて取り去っても、脳組織そのものにかなり強い学習能力が元から備わっている」という、少しゾクッとする結論につながります。

本当にそんなことがあり得るのでしょうか。

次ページ目も耳もない人工培養脳が失敗から学んでいく様子

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