農業は世界各地の人類を同じ方向に進化させた
農業は世界各地の人類を同じ方向に進化させた / Credit:川勝康弘
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農業は世界各地の人類を同じ方向に進化させた (2/3)

2026.03.12 17:00:11 Thursday

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農業の始まりで食とお酒にかかわる遺伝子も同じように変化した

農業の始まりで食とお酒にかかわる遺伝子も同じように変化した
農業の始まりで食とお酒にかかわる遺伝子も同じように変化した / Credit:Canva

ここまでの話は「人類の進化」というスケールの大きな話でしたが、研究の中身をもう少し具体的に見ると、ぐっと身近なテーマが出てきます。

それが「食べ物」と「お酒」にかかわる遺伝子です。

まず登場するのが、脂肪酸という栄養を体の中で作り変える働きに関係した遺伝子「FADS1(ファッズワン)」です。

油の正体を細かく見ると「脂肪酸」といういろいろな種類の脂が集まっていますが、ここではざっくりと「短めの脂肪酸」と「長めの脂肪酸」の2種類があると思ってください。

植物のタネや穀物には、短めの脂肪酸がたくさん入っています。

一方、肉や魚には、体がそのまま使いやすい“完成した長めの脂”が多めに入っています。

この遺伝子(FADS1)の役目は、植物由来の短い脂肪酸の材料から、体に必要な長い脂肪酸を作るのを助ける役割があります。

狩りをしていた頃の人間は肉や魚をよく食べていましたから、もともと長い脂肪酸を直接取ることができました。

しかし農業が始まると、食事は植物を中心としたものに変わり、動物由来の長い脂肪酸をとる機会が減っていきます。

すると、植物に多い材料になる脂肪酸をうまく長い脂肪酸に作り変えられる人、つまり遺伝子(FADS1)の機能が高い人がより生存に有利になります。

今回の研究では、この遺伝子(FADS1)の「植物中心の食事に適したタイプ」が、ヨーロッパでも東アジアでも増えていることが確認されました。

この結果は、人類は農業という環境に対応するために離れた地域であっても、似た遺伝子のタイプが選ばれていた可能性を示しています。

また、これとは少し別の形で、農業のはじまりと深く関連した遺伝子も注目されました。

それは「ADH1B」というお酒を分解する酵素に関係する遺伝子です。

このADH1Bのある型を持っている人は、お酒を飲むとすぐに体の中でアルコールを分解します。

こう聞くとお酒に強い遺伝子に思えますが、逆です。

ADH1Bのある型は、アルコールを素早く「アセトアルデヒド」という物質に変えてしまい、それが顔の赤みや気分の悪さの原因になるのです。

(※日本の大学などで行われるアルコールパッチテストは、主にALDH2という別の遺伝子の働きの違いをみる簡単なテストです。お酒はまずADH1Bの働きでアセトアルデヒドに変わり、そのあとALDH2の働きで分解されます。つまりこの2つに限れば、ADH1Bが強く、ALDH2が弱いと、反応が強く出やすい組み合わせです。)

この「お酒に弱い体質」は、特に東アジアでよく見られます。

今回の研究で、このADH1Bの遺伝子にかかる自然選択が、東アジアでは「100〜150世代前」、つまりおよそ3000〜4000年前から急に強くなっていることがわかりました(※穀物は、発酵すると簡単にお酒ができます。)。

この変異はお酒に弱くなることで、お酒を飲まないようにさせる淘汰圧が広まったと考えられています。

面白いことに、これまでの研究と今回の解析から、ADH1B遺伝子は東アジアだけでなくヨーロッパでも、長い時間をかけて自然選択の影響を受けてきたことが示されています。

ただし、実際に押し上げられている遺伝子の型そのものは東アジアとは少し違っているらしく、まったく同じ変化が起きているわけではなさそうです。

それでも、お酒の分解にかかわる同じ遺伝子が、遠く離れた地域でそれぞれ選ばれてきたという事実は、農業にともなう食生活や飲酒習慣の変化など、共通した環境の影響があった可能性をうかがわせます。

次ページ現状を維持するための「進化」も起きていた

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