暗闇の中で「光」を手に入れたとき、何が起きたか

映画「ファインディング・ニモ」で、歯がぎらぎら光るアンコウに追いかけられるシーンを覚えている方もいるのではないでしょうか?
あの不気味な光の正体は、メスのアンコウの頭から突き出た誘引器の先端(エスカ)に住みつく発光バクテリアが放つ輝きです。
しかし、光る誘引器はアンコウが地球に登場した当初から存在していたわけではありません。
日光が届かない深海に進出したアンコウたちが、あるとき直面した問題は明白でした。
真っ暗で、水は冷たく、餌は乏しい。
浅い海底でうまく機能していた「動きで誘う」戦略は、光がなければ獲物に見えません。
水深数千メートルの暗闇で、ゆらゆら揺れるだけの透明な棒を振っても、誰も気づかないのです。
そこでアンコウは、およそ3400万年前から2300万年前にかけて、新たな進化上の一手を打ちました。
エスカの内部に、自ら光るバクテリア(生物発光バクテリア)を住まわせ、光らせ始めたのです。
この発光バクテリアは、自由に暮らす近縁種と比べて遺伝情報が約半分にまで縮小しており、エスカの外ではもう生きられない体になっています。
アンコウと発光バクテリアは、文字どおりの「運命共同体」を築いたのです。

ここで1つ、興味深い事実があります。
光る種のルアーは、光らない種のルアーに比べて約3倍も長いのです。
なぜわざわざ長くする必要があったのでしょうか。
マイレ氏とデイビス教授の推測はこうです。
ルアーが短ければ、光が自分自身の体を照らしてしまいます。
深海のアンコウは赤や黒の体色で暗闇に溶け込んでいるのに、顔のすぐ前で光を灯せば、巨大な口と鋭い歯が獲物にも天敵にも丸見えになってしまう。
だからルアーを長く伸ばして、光と体の間に距離を取ったと考えられています。
暗い部屋でスマホの画面を見ると、自分の顔がぼんやり照らされてしまう――深海のアンコウにとっても、同じ問題が起きるのです。
さて、ここまでの話をまとめると、深海アンコウは「光」という新しい武器を手に入れ、それを体から遠ざける工夫まで進化させたことになります。
しかし、ここで1つの謎が残ります。
光で餌が獲りやすくなったのなら、それだけで十分に有利なはず。
ところが研究チームの解析によると、光る誘引器を持つグループは、光らないグループに比べて2〜3倍も速いペースで新しい種を生み出していたのです。
「餌が獲りやすくなった」だけでは、これほどの差は説明がつきません。
では、光にはほかにどんな役割があったのでしょうか?

























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