「道具が通信も兼ねたとき、多様性が爆発する」

ここで一歩引いて、アンコウの進化が教えてくれる、もっと大きな構造について考えてみましょう。
アンコウの光る誘引器は、もともと餌を捕るための「武器」として進化しました。
しかし深海という極限環境に置かれたとき、その武器に、配偶者を見つけるための「通信装置」としての役割が加わりました。
そして兼用が進化した系統で、種の多様化が2〜3倍のペースに加速していました。
研究者たちは、同じパターンがハダカイワシ、ハチェットフィッシュ、ドラゴンフィッシュなど他の深海魚でも見られると指摘しています。
光を使って同種の仲間と「私はここにいる」と伝えるようになったグループは、いずれも多様化率が高いのです。
「道具が通信を兼ねると、種が爆発する」――この構造は、進化生物学の文脈を超えて、どこか聞き覚えがないでしょうか?
たとえば携帯電話は、もともと「声を遠くに届ける道具」でしたがカメラが載り、SNSと結びついて「自分を表現し、他者を見つける通信装置」に転用された瞬間、デバイスの多様性も、それを使う文化の多様性も、爆発的に増加しました。
あるいは、文字。
もともとは穀物の在庫を数えるための「記録の道具」でした。
しかし物語を書き、恋文を送り、法律を定めるための「通信の手段として使われるように」なったとき、人類の文化は爆発的に分岐しました。
「道具→通信→多様性の爆発」は、アンコウの深海でも、人間の文明でも、同じ抽象パターンをなぞっているように見えます。
もちろん、研究にはまだ解明されていない点が残されています。
メスの誘引器の精巧化がオスの感覚の特化を引き起こしたのか、それともオスの探知能力が「もっと目立つメスの誘引器」を選んだのかは、未解決のままです。
また、光を持つ種のエスカに存在する腺構造が、フェロモンを放出しているのか、それとも発光バクテリアの培養に関わっているのかもまだ分かっていません。
しかし、この研究が明らかにした構造は明快です。
サットン教授はこう問いかけます。
「真っ暗で、寒く、食料も乏しい。これ以上劣悪な環境は想像しがたい。それにもかかわらず、この魚の群れは他の魚とは比べ物にならないほど繁栄しているのです。」
その答えの一端が、今回の研究で見えてきました。
暗闇という「最も過酷な環境」で、1本の釣り竿を「食料確保」と「恋人探し」の両方に使えるよう進化させたアンコウたちは、その洗練された解決策のおかげで、現存するアンコウ約413種のうち43%を占めるまでに繁栄しています。

























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