アンコウの「ちょうちん」は進化の起爆剤だった――種が増えるペースが3倍に
アンコウの「ちょうちん」は進化の起爆剤だった――種が増えるペースが3倍に / Credit:Canva
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アンコウの「ちょうちん」は進化の起爆剤だった――種が増えるペースが3倍に (3/4)

2026.04.25 21:00:51 Saturday

前ページ暗闇の中で「光」を手に入れたとき、何が起きたか

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光は「釣り竿」だけではなく「ラブレター」でもあった

光は「釣り竿」だけではなく「ラブレター」だった
光は「釣り竿」だけではなく「ラブレター」だった / Credit:Canva

研究チームが注目したのは、オスの存在です。

深海アンコウのオスとメスは、体の大きさがまるで違います。

メスの体長が数十センチにもなるのに対し、オスはわずか数センチしかありません。

そのかわり、オスの目は体に不釣り合いなほど大きく、鼻の穴(嗅覚器官)も巨大に発達しています。

さらに驚くべきことに、一部の種ではオスはメスの体に永久にくっついて融合し、血液から栄養を受け取りながら、脳や内臓がほぼ退化して、最終的には精巣だけが残る存在になります。

ここで浮かび上がるのは、ある重大な疑問です。

広大な暗闇の中で、こんなに小さなオスは、いったいどうやってメスを見つけるのか?

マイレ氏とデイビス教授は、ここに1つの仮説を立てています。

メスの光る誘引器には、まわりの筋肉を収縮させて光を調節できる、小さな「窓のシャッター」のような構造が備わっています。

つまりメスは、ただ光を灯しているのではなく、光の点滅パターンで種固有のシグナルを送っている可能性がある。

大きな目を持つオスは、遠くからそのきらめきを察知し、巨大な鼻腔でメスが放つ化学物質(フェロモン)をかぎ分ける。

つまり、光る誘引器は「餌を釣る竿」であると同時に、暗闇の深海でオスに向けて送る「ラブレター」でもあったと考えられるのです。

注目すべきなのは、その先の展開です。

ここから先はまだ仮説ですが、おそらく、ちょっとした光り方の違いが「好みの分かれ目」になったと考えられます。

ある集団のメスがわずかに異なるリズムで光り、その光を好むオスだけが集まるようになれば、同じ海域にいても別の集団のメスとは交配しなくなっていきます。

こうした「光の好みによる住み分け」が繰り返されるうちに、それぞれの集団は遺伝的にも離れていき、やがて別々の種へと枝分かれしていった可能性があります。

つまり、光を手に入れたことで、アンコウは種が分かれやすい素地を自らの体に組み込んだのです。

ラブレターの「書式」にバリエーションが生まれるほど、種の枝分かれも起きやすくなる――研究チームはこの進化パターンを実際のデータから見いだしました。

種の増え方の速さ(多様化率)を統計モデルで比較した結果、光る誘引器を持つ系統は、動きだけで誘う機械式ルアーの系統に比べて、明らかに高い種分化率を示しました。

一方、機械式ルアーしか持たないグループでは、多様化率の上昇は見られませんでした。

研究チームはこの結果から、機械式ルアーは「餌とりだけに使う道具」であり、仲間どうしのコミュニケーションには関わっていないと結論づけています。

今回の研究に関わっていないサットン教授(フロリダ州ノバ・サウスイースタン大学)は、この発見をこう評しています。

「食べることも、子孫を残すことも必要だ。獲物と配偶者の両方を引き寄せることができる発光する誘引器の進化は、まさにこの二つの問題に対する洗練された解決策だ。」

次ページ「道具が通信も兼ねたとき、多様性が爆発する」

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