闇のが光の速度を超え無限大になる瞬間

そしてここで、本論文が捉えた最も劇的な瞬間がやってきます。
光の中に生まれた振幅ゼロの逆向きのつむじが、お互いを引き寄せ合うように近づいていったのです。距離が縮むにつれて、両者の相対速度はぐんぐん上がっていきます。
そして衝突して消滅する直前の最後の数フェムト秒、速度は理論的には無限大に向かって発散します。
論文の図2には、その瞬間がはっきり写っています。最後の約9フェムト秒のうち、前半は光速未満で動いていた2つの闇の渦の距離が、後半になると爆発的に加速し、最後の数フェムト秒で光速を突破します。
そしてさらに距離がゼロに近づく瞬間、速度は理論上、無限大に発散します。
「ここで「光速を突破」「無限大に発散」と聞くと相対性理論に違反するのでは?」と思うでしょう。
しかしアインシュタインの特殊相対性理論を詳しくみてみると「光速を超えるな」と命じているのは、実はすべてのものに対してではないのです。禁止されているのは「エネルギーや情報や物質を運ぶもの」だけです。
なぜか。理由はとてもシンプルで、もしエネルギーや情報を持った何かが光速を超えると、原因と結果がひっくり返ってしまうからです。
光速を超える信号があれば、それを使って「未来から過去へメッセージを送る」ことが原理的に可能になり、「タイムマシンで過去の自分にメッセージを送って事故を防ぐ」みたいなパラドックスが起きてしまう。
宇宙が因果関係を保てなくなる。だからアインシュタインは「これだけは禁止」と封印したのです。
逆に言えば、エネルギーも情報も運ばない「幾何学的な構造」なら、いくら速く動いても、宇宙は何も困りません。原因と結果のバトンを渡しているわけではないからです。
論文の中で、研究チームはこの点をはっきり明言しています。
位相特異点はエネルギーや情報を運ばないため、因果律を破ることなく超光速で「移動」することができるというわけです。
ただし、ここで一つ、重大な意味が出てきます。
物理学者たちはこれまで、暗闇の点(位相特異点)を「液体の中の粒子と同じように振る舞う」と捉えてきました。お互いに引き合ったり、距離の相関に秩序があったり、ペアで生まれたり消えたり――まるで本物の粒子みたいにです。
ところが、本論文はそれは違うと示しています。
消滅の瞬間、暗闇の点は粒子のように振る舞うのをやめます。
粒子は決して光速を超えませんが、暗闇の点(位相特異点は)は超えます。
粒子と特異点の同一視は、ここで破綻してしまします
実はこれが、本論文の本当の核心の1つです。
「光より速いものを見つけた」というニュース性の裏側で、約50年間信じられてきた「特異点は粒子の親戚」という見方が、消滅の瞬間という極限状況では崩れることが、ついに観測で確認されました。
「特異点は粒子のような秩序を見せながらも、極限状態では粒子の振る舞いから外れる」ということを、消滅の瞬間という究極の場面で、人類は初めて観測的に確認したのです。
ただ、それでも純粋に数学的な点に過ぎないわけでもありません。
論文も冒頭で、位相特異点を「整数値(±1)に量子化された保存量を持つ点」と位置づけ、超流動、超伝導、音波、光場などに広く現れる普遍的な構造だと説明しています。
つまり、いろいろな波の世界で実在する構造的な特徴であり、さまざまな場所に出現し得るというわけです。
さらに、光の特異点は光と物質の相互作用の制御、超解像イメージング、古典情報・量子情報の符号化にも関わると書かれています。
つまり、数学世界の架空の点などではなく、実在する場の構造です。位相がぐるりと巻き、中心では振幅がゼロになり、左右の回転方向(正負のトポロジカル電荷)を持つものです。



























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