光子を切ろうとすると無限に湧く——―なのに、見ると1個

帯の一部を鏡でさえぎったら、残りはどうなるのか。
素直に考えれば、答えはこうなるはずです。
こちら側に1個。そして向こう側には、何もない空っぽの空間——真空が残る。
光のつぶは割れないのだから、これ以外の答えはなさそうに思えます。
ところが、研究チームが光と電磁場のふるまいを記述する量子の方程式を使って、きちんと計算してみると、この素直な予想は、まちがいだとわかりました。
光のつぶを切ろうとすると、減るどころか、新しいつぶが次々に生まれてきたのです。
しかもその数は、0個、1個、2個……と、どこまでも続いていく。
無限個までのあらゆる可能性が、いっぺんに含まれた状態でした(※より正確に言えば、「光が何個ある状態か」という見方をしたときに無限個ぶんまでふくらんでいた、ということです)。
「0個でもあり、1個でもあり、2個でもあり、それらが重ね合わさったり混ざり合ったりして含まれている」——これは、リンゴのように数がはっきり決まっている世界とは、まるで違います。
ふたを開けるまで何個あるか決まっていない。量子ならではの、ふしぎなあり方です。
割れないはずの光のつぶを、ほんの少し切ろうとしただけ。
なのに結果は、無限個のつぶがざわめく、おそろしく複雑な状態でした。
神話のヒュドラは「1本切れば2本」でしたが、光のつぶは「少し切れば無限個」。
神話の怪物さえ、はるかに上回る奇妙さだったのです。

——と、ここで話が終われば、「光を切ると、とんでもなく複雑になる」という、それはそれで面白い結論でした。
ところが、本当に不思議なのはここからです。
研究チームが、切れ目を境にして、その左右を詳しく調べてみると、まったく予想外のことが見えてきました。
切れ目のあたり——専門的には「遷移領域」と呼ばれる、ごく狭い区間——をはさんで、その片側だけを見ると、「光のつぶが、ふつうに1個あるだけ」。
反対側を見ると、「ただの空っぽの真空」。
そんな、拍子抜けするほどありふれた景色が、そこにはあったのです。
全体としては、無限個のつぶが重なり合った、超のつく複雑な状態のはずです。
それなのに、見る場所を切れ目の左右にしぼると、まるで無限個など最初からいなかったかのように、ごく当たり前の顔をしている。
この研究について取材に対しコメントを寄せた、英ヨーク大学のサミュエル・ブラウンスタイン氏は、この不思議さをこう言い表しています。
量子の世界では「恐ろしく複雑なものが、まったく単純なものに見せかけることができる」のだ、と。
正体は、無限のつぶがひしめく途方もない怪物なのに、こちらが見ている範囲では、すました顔で「ただのつぶ1個ですよ」「ここは何もない空っぽですよ」と、すっかり単純なふりをしてみせる——そんなイメージです。
ここまでで、なぞなぞは3つに増えました。
割れないはずの光から、そもそもなぜ、つぶが湧いて出るのか。
湧いたつぶは、いったいどこにいるのか。
そして——なぜそれが、よりによって無限という数になるのか。
以降では、この3つの謎を、ひとつずつ見ていきます。


















































