「境界線」が片方だけのルールになると、友情は苦しくなる
非相互性が現れるもう一つの形が、相手の境界線ばかりが優先される関係です。
近年、「境界線を引くこと」は、心を守るための大切な行動としてよく語られます。
「疲れているときに無理をしない」「一人になる時間を確保する」「気乗りしない誘いを断る」などの行動は、本来とても健全なものです。
トラヴァース氏は、境界線という言葉が使われているからといって、その関係が必ず安全で対等だとは限らないと指摘しています。
問題は、境界線が双方向ではなく、一方向にだけ働く場合です。
たとえば、友人が「ストレスがあるときは一人になりたい」と言ったとします。
あなたは相手を尊重し、無理に連絡を取らず、準備ができるまで待ちます。
ところが後日、あなたが忙しさや疲れから少し連絡を控えると、相手は「避けられた」「冷たくされた」と受け取ってしまいます。
この場合、相手の「距離を置きたい」は尊重されるのに、あなたの「今は余裕がない」は尊重されていません。
また、相手が「自分の時間を大切にしたい」と言って誘いを断るのは許されるのに、相手が助けを求めるときには、あなたがすぐ応じることを当然のように期待される場合もあります。
ここで問題なのは、相手が境界線を持っていることではありません。
問題は、その境界線が相手の都合だけを守り、こちらの都合や限界を守る仕組みにはなっていないことです。
本来、境界線はお互いを守るためのものです。
「今は話せない」「今日は会えない」と言う自由は、どちらか一方だけでなく、双方に認められる必要があります。
しかし、片方の限界だけが絶対的なものとして扱われ、もう片方の限界は「気にしすぎ」「冷たい」と押し返されると、境界線は対等なルールではなくなります。
この点に関連する概念として、2008年の研究では「boundary dissolution(境界線の曖昧化・崩れ)」という考え方が整理されています。
この論文では、境界線の曖昧化を「個人同士の心理的な独立性が失われたり、人間関係における役割の区別が混乱したりする状態」と説明しています。
そして、個人間の適切な境界線が崩れることは、関係の中で感情的な傷つきを生むリスクを高めると指摘しています。
確かに「人と人とのあいだには適切な区切りが必要だ」という視点は、大人の友情を考えるうえでも参考になります。
大人の友情を破壊する2つの要素を考えてきました。
大人の友情が難しいのは、多くの場合、相手が明確に悪意を持っているわけではないからです。
相手は本当に忙しいのかもしれません。
本当に余裕がないのかもしれません。
だからこそ、こちらも相手を理解しようとします。
しかし、どれほど相手に事情があっても、配慮や支援がいつも一方向に流れ、境界線が乱れているなら、その友情は少しずつ疲れるものになります。
大切なのは、支える側と支えられる側が固定されず、お互いの限界が尊重されることです。

























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