言語の起源は笑いに隠れている

「人間はいつ、どうやって言葉をしゃべれるようになったのか」。
これは、進化の研究者たちがずっと頭を悩ませてきた大問題です。
なぜ難しいかというと、理由はとてもシンプル。声は化石にならないからです。
恐竜の骨なら何千万年も土の中に残ります。古代人の歯や頭蓋骨も見つかります。
でも、声はどうでしょう。空気を震わせた瞬間に消えてしまいます。
録音技術が発明されたのはたかだか150年前の話ですから、それ以前の声は一切記録が残っていません。
そのため科学の世界では、こんな物語が長らく語られてきました。
「あるとき人類の脳に、ぱちんとスイッチが入った。そしてある日突然、私たちの祖先は”話す生き物”になった」
まるで、真っ暗な部屋に照明が灯るように——言葉の能力は、いきなり生まれたのだ、と。
でも、本当にそんなことが起きるでしょうか。
心臓や肺のような複雑な臓器が、ある日ポンと現れることはありません。何百万年もかけて、少しずつ形を変えていく。それが進化の姿です。
だとしたら、言葉の力だって、いきなり出現したというより、その「一歩手前」の能力が長い時間をかけて磨かれていた——そう考えるほうが自然な気がします。
ではその一歩手前の能力は、どこに残されているのでしょうか。
化石には残らない。ならば、いまも生きている動物たちの体のなかを見るしかない。
そう考えたイギリス・ウォーリック大学とポーツマス大学の研究チームは、思いがけない場所に目をつけました。
「笑い」です。
なぜ笑いなのかというと、笑いが「ヒトだけのもの」ではないからです。
実はこれまでの研究でチンパンジーも、ボノボも、ゴリラも、オランウータンも、笑うことが判明しています。くすぐられたときや、仲間とじゃれ合っているとき、現存するすべての大型類人猿が、笑うのです。
私たち人間と、これら大型類人猿すべての「共通のご先祖さま」は、いまからおよそ1500万年前に生きていたと考えられています。
ということは、これらの類人猿と私たち人間がまだ枝分かれする前の時代には、すでに笑いという行動が存在していたはずです。
もし太古の笑いの中に、「声を操る力」がどう進化してきたかの痕跡が残っているとしたら。声は化石にならないけれど、笑いという「生きた行動」の中に、音の化石のようなものが埋まっているかもしれません。
そこで今回、研究チームは世界で初めて、すべての大型類人猿の笑い声のリズムを比べる研究に乗り出しました。



























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