「貧しかったか」より「抜け出せたか」が老後の心に関わる可能性
研究チームは、抑うつ傾向との関連を調べる際に、年齢や性別だけでなく、現在の所得、学歴、婚姻状況、就労状況、健康状態、孤独感、さらに両親の学歴なども統計的に調整しました。
つまり、単に「今の収入が高いから抑うつ傾向が低い」という説明だけでは片づけられないようにしたのです。
そのうえで、「経済的困難が徐々に和らいだ群」は、「一貫して経済的困難が強い群」に比べて、抑うつ傾向を示すオッズが低いことが分かりました。
調整後のオッズ比は0.60でした。
さらに興味深いことに、モデルで推定された予測確率だけを見ると、抑うつ傾向は「経済的困難が徐々に和らいだ群」で12.5%、「一貫して経済的困難が小さい群」で15.8%でした。
数値上は、“ずっと困難が小さかった人”よりも、“困難を抜け出した人”の方が低い値を示していたのです。
また、今回の分析では、この関連は男性よりも女性でより顕著でした。
では、なぜ経済的困難が和らぐことが、老後の心の健康と関係するのでしょうか。
研究チームはその理由として、経済的困難が和らぐことで慢性的なストレスが減ったり、心理的な回復力が育まれたりする可能性を考察しています。
一方、一貫して経済的困難が強い群では、経済的困難が長く続くことで、生活不安だけでなく、家族関係や社会関係、自尊心、社会的支援などにも影響し、ストレスが積み重なりやすくなると考えられます。
この研究は横断研究であり、「経済的困難を抜け出したから抑うつ傾向が低くなった」と因果関係を断定することはできません。
また、対象者の多くは日本の高度経済成長期に若年期や中年期を過ごしており、現在の若い世代にそのまま当てはまるとは限らない点にも注意が必要です。
それでも本研究は、子ども時代の経済的困難だけで老後の心の健康が決まるわけではなく、人生の途中で困難から抜け出せる機会を増やすことが、高齢期のメンタルヘルスを支える可能性を示しています。

























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