99歳の数学者たちは「反例がないこと」を証明した

なぜ4本の合否判定に、数学者たちは苦戦していたのでしょうか。
理由の1つが思い込みでした。
多くの研究者は「5本で破綻するなら、4本もどうせ破綻するだろう」と思い込み、破綻するケースを探していたのです。
もし1例でも破綻する場合を特定できれば、証明としては十分です。
だから、みんな探しました。膨大な数の組みひもを、手当たり次第に計算させました。
しかしそれでも、見つかりませんでした。
そこで今回の研究チーム——コロンビア大学のジョーン・バーマン氏、グラスゴー大学のタラ・ブレンドル氏、プリンストン大学のヴァスダ・バラトラム氏の3人は、前提のほうが間違っているのではないかと考えました。
「4本もどうせ破綻するだろう」という多くの人々の思い込みを捨てて、4本では「翻訳によって情報が消える現象が起こり得ない」と証明することにしたのです。
いわば反例が存在しないことの証明と言えるでしょう。
結果、この戦略は当たります。
多くの人々の予想を裏切り、4本の場合でも完全な翻訳は完璧ができていたことが示されました。
4本の場合には情報が消えてしまうことがなかったわけです。
具体的には、こんがらがった紐を数字の表にする過程では、1本の線をもう1本が横切るたびに、プラスかマイナスの符号と、その交差を書き込む欄の番号がつけられます。
ですが情報が消える手口は、別々の交差点が同じ欄に落ちてきて、そこにプラスとマイナスが同居する場合しかありませんでした。
逆に言えば、同じ欄にはプラスしか来ない(あるいはマイナスしか来ない)ことさえ保証できれば、打ち消し合いは起きず、その組みひもの情報は消えずに残ります。
3人は、この打ち消しが起きる条件に、きれいな規則があることを見つけました。
そしてこの規則を使うと、すでに合格とわかっている3本の場合を、新しいやり方でもう一度証明できたのです。
ところが最後にどうしても規則からはみ出す「はぐれ者」が、たった一種類だけ残りました。
ここで3人は、驚くべき一手を打ちました。
目印の点をもう一つ置いて外から確かめるという手法です。
いわば、判定が割れたときに立会人を一人呼んでくる、というやり方です。
奇策に見えますが、使われているのはこの分野で長く磨かれてきた標準的な道具立てで、論文ではこれを「Embedding in B5(B5への埋め込み)」と呼んでいます。
そしてこの立会人の前では、最後まで残っていたはぐれ者もまた、情報を失っていないことが示されました。
こうして4本が数字の表に完全に翻訳できることが示されたわけです。
世界中の研究者たちが反例を探す中で、反例が存在しないことが証明できた瞬間でした。































