安全な天坑が、将来の適応力を奪っていた
天坑の内部とすぐ近くの外部集団を細かく比べると、天坑のもう一つの顔が見えてきました。
内部の集団では、近隣の外部集団より遺伝的多様性が低く、有害と予測される変異が多く蓄積していました。
その背景にあるのが、周囲を切り立った崖に囲まれた天坑特有の地形です。
植物が別の集団と遺伝子を交換するには、花粉や種子が風や昆虫、動物などによって運ばれる必要があります。
しかし、深い天坑や入り組んだカルスト地形は、その移動を妨げる強い障壁になります。
そのため天坑内部の集団は、近くに外部集団が存在していても、遺伝的には孤立しやすくなります。
そして小さな集団が長期間隔離されると、どの遺伝子が次世代に残るかが偶然に左右されやすくなります。
この現象が強まると、環境変化に対応するための遺伝的な選択肢が少しずつ失われ、有害な変異も集団内に残りやすくなります。
つまり、天坑の暗い環境への適応にも、長期的には弱点が潜んでいるのです。
弱い光でも成長できる性質は現在の天坑では有利ですが、強い光の下で苗木が生きにくいことは、将来、生息できる場所を広げる際の制約になる可能性があります。
研究チームはさらに、将来の生息域、現在の遺伝的適応と未来の気候とのずれ、有害変異の蓄積予測を組み合わせました。
その結果、高排出シナリオでは本世紀末までに、現在の生息地のおよそ3分の1が深刻な気候の不一致に直面し、多くの集団で有害変異の負荷も増えると予測されました。
特に危険なのは、天坑の縁など、集団間の遺伝子交流が妨げられやすい地域です。
天坑の外側にある集団や、花粉や種子が移動できる経路が失われるなら、内部の樹木はさらに孤立し、将来の変化に対応する余力を失っていくおそれがあります。
天坑は確かに絶滅危惧樹木を守ってきました。
しかし、その避難所を未来にも有効なものにするには、穴の底だけでなく、周辺集団とそれらを結ぶ遺伝的なつながりまで守る必要があるのです。
























