複雑な触角で「メスの匂い」を探していた可能性
Icaroramusの触角を理解する手掛かりになるのが、「昆虫にとっての触角の役割」です。
昆虫の触角には、空気中の化学物質を感じ取る小さな感覚器官が多数存在します。
触角が枝分かれすれば表面積が広がり、より多くの感覚器官を配置できるため、微量な化学物質を捉えるのに有利になると考えられています。
実際、現在生きているホタルやその近縁種では、フェロモンによる配偶者探しに強く依存する種ほど、長く枝分かれした触角を持つ傾向があります。
反対に、発光のような視覚的な合図を配偶者探しに使う種では、触角が比較的単純になる傾向が知られています。
そこで研究チームは、Icaroramusの雄も、この複雑な触角で雌が発するフェロモンを捉え、相手を探していた可能性が高いと考えています。
さらに、長い枝と短い枝では表面の毛の形にも違いがありました。
そのため、それぞれが異なる種類の化学物質や、異なる距離から届く化学信号の検出を担っていた可能性もあります。
ただし、化石では個々の感覚器官の種類や配置までは詳しく確認できないため、この「役割分担」については現時点では仮説です。
そしてIcaroramusには、もう1つ興味深い特徴がありました。
腹部には、発光器官とみられる構造も残されていたのです。
そうなると、「ホタルのように光を使って相手を探していたのでは?」と思うかもしれません。
しかし、これほど発達した触角を持っていることから、研究者らは配偶者探しではフェロモンが主役であり、光はむしろ捕食者を遠ざける警告信号として使われていた可能性を重視しています。
ただし、光が求愛にも補助的に利用されていた可能性は否定できません。
興味深いことに、Icaroramusと同じ4本枝の触角を持つ甲虫は現在知られていません。
約1億年前の琥珀に残されたIcaroramusの奇妙な触角は、現代には残らなかった生物の「設計」がかつて存在していたことを示す、貴重な証拠なのです。

































