私たちの中に、80万年前から孤立していた血筋がある

ポイント:DNAの文字の並びを睨んでも、その一文字がどこから来たのかは書かれていません。手がかりになるのは、並びそのものではなく、それが誰から誰へ渡ってきたかという履歴のほうです。ほとんどの区画では、10万年ほど遡れば一つに合流します。ところが、いくら遡っても合流しない区画がありました。ホモ・サピエンスという種そのものが生まれて30万年ほどですから、その数倍の彼方まで行かなければ血縁のつながらない相手は、もう外から来たものしかありません。新たな手法「TRACE」は、その一本を探しにいきます。
比較のための集団を外に用意できないのなら、判断の材料はゲノムの内側にしか残っていません。
とはいえ、DNAの文字の並びをいくら睨んでも、その一文字がどこから来たかは書かれていません。
手がかりがあるとすれば、並びそのものではなく、その並びが誰から誰へ渡ってきたかという履歴のほうです。
たとえばゲノムの一つの区画だけを取り出して、世界中の人と見比べてみます。
あなたのその区画と、そっくり同じものを持っている人が、どこかにいるはずです。
いなければ、少し似た人を探します。
そうやって遡っていくと、いつか必ず、共通の祖先に行き当たります。
二人の血筋が一本にまとまる地点です。
多くの区画では、10万年から20万年ほど遡れば、まとまります。
地球の裏側に住む見知らぬ他人でも、区画を一つ選べば、そのくらいの距離の親戚だということです。
ところが、いくら遡ってもまとまらない区画がありました。
10万年でも、20万年でも足ず、80万年の彼方まで行って、ようやく他の人々と合流します。
ホモ・サピエンスという種そのものが生まれて30万年ほどですから、種の年齢の何倍もさかのぼって、ようやく血がつながる相手です。
そんなに遠くまで行かなければつながらない相手は、外来との交雑くらいです。
ただし、深いというだけでは決め手になりません。
大昔の祖先集団にあった古い型が、交雑とは関係なく、偶然いまも生き残っていることがあるからです。
そこで重要になるのが断片の長さです。
偶然の生き残りは、途方もない年月のあいだ、組換えによって刻まれ続けて、細かく砕けています。
一方で、外から入ってきた断片は、刻まれた時間が短いぶん、まだ長いまま残っています。
染色体を絵巻物のように端から開いていくと、区画ごとに、合流点の深さや断片の長さが変わっていきます。
ほとんどは浅く細かな断片ですがときおり、異様に深く、しかも長く続く区画が現れます。
バークレー校のユリン・チャン氏、ジョンズ・ホプキンス大学のアルジュン・ビッダンダ氏、同じくバークレー校のプリヤ・ムールジャニ氏らが開発した手法「TRACE」は、その「深くて長い」区画を探しにいきます。
研究では新手法のテストも行われ、古代由来と判定した区画の誤りはごくわずかにとどまることが確認されました。
では、現在の人類のDNAデータに対して、この新手法「TRACE」を使用したら、何が見えてきたのでしょうか?


























