幽霊DNAを重ね合わせる

ポイント:一人が受け継いでいる幽霊DNAは、多くて1パーセント前後にすぎません。ところが、その1パーセントがゲノムのどこにあたるかは、人によって違いました。そこで研究チームは、調べた全員分の幽霊DNAを一枚の地図の上に重ね書きしました。その結果、解析可能なゲノム領域の71.54パーセントに、誰かの幽霊由来の断片が乗っていました。人類全体に散らばった証拠を集めてまとめた成果です。さらにオセアニア人のゲノムに残るデニソワ人由来DNAを調べると約177万年前まで系譜をさかのぼる超古代系統がいる可能性もみえてきました。
未知の系統のDNAについて、一人が抱えている量は、多くても1パーセント前後です。
ゲノム全体から見れば、微量というほかない値です。
ところが研究チームが調べてみると、その持ち場は人によって違っていました。
ある人が持つ幽霊由来の区画と、別の人が持つそれは、重なりもするものの、完全には一致しません。
残っている場所が、人によって少しずつ違うのです。
そこで研究チームは、サハラ以南のアフリカの人々から非アフリカの人々まで、調べたすべての個人から検出された幽霊由来の断片を、ヒトゲノムという一枚の地図の上に重ね書きしていきました。
覆われた範囲は、1548.75メガ塩基対に及び、解析可能なゲノム領域の、71.54パーセントにあたります。
ヒトゲノムの読める範囲の7割——その内側のどこを指しても、そこに幽霊由来の断片を持つ人が、地球上のどこかにいるということです。
一人あたりでは、約1パーセントの薄い痕跡にすぎませんが全員分を重ねると、痕跡はゲノムの広い範囲を覆うのです。
また、幽霊由来の断片が集団の中で異常に高い割合まで広がっている場所を調べると、免疫に関わる遺伝子群と、代謝に関わる遺伝子群に集中していることが分かりました。
免疫と代謝は、新しい土地に移った集団が真っ先に試される場所です。
見たことのない病原体と、見たことのない食べ物。
先にその土地にいた集団は、そこに何十万年もかけて適応していました。
交雑は、その答えを一度に受け取る道でもあったのでしょう。
オセアニアの人々は超高代系統のDNAを持っていた
今回の研究が捉えた「幽霊」は、もう一系統あります。オセアニア人のゲノムに残るデニソワ人由来DNAを調べると、その内側から、約177万年前まで系譜をさかのぼる断片が見つかりました。研究チームは、その持ち主を「超古代系統」と呼んでいます。177万年前という数字は、交雑した年代ではありません。両者のDNAが共通祖先へ合流する推定時点です。このDNAは、まず超古代系統からデニソワ人へ渡り、さらにデニソワ人から現生人類へ届いたと考えられます。いわば、祖先の中に隠れていた、もう一人の祖先です。量は、検出されたデニソワ人由来DNAの約0.3%にすぎません。候補にはホモ・エレクトスが挙げられていますが、正体は未判明です。また、今回この痕跡が確認されたのはオセアニア人であり、現代人全員が持つと分かったわけではありません。人類のDNAには、マトリョーシカのように祖先から祖先へ手渡された「多重底の歴史」まで残っていたのです。
つまり今回の研究では世界中の幅広い人が少しずつ持つ未知の幽霊系統と、オセアニアの人々だけに見られる超古代の2種類の幽霊系統が見出されたことになります。
しかし研究はここで終わりませんでした。


























