「混じっていない人類」は、地球のどこにもいなかった

ポイント:骨がないなら、生きている人のゲノムから割り出せばいい。長く試みられてきたのは、人類の集団どうしを比べて、その差を取り出す方法でした。アフリカを出なかったためネアンデルタール人と出会っていない、最もピュアなサンプル役として選ばれていたのが、サハラ以南のアフリカの人々です。ところが、突き合わせて差を取る方法には、原理的な死角があります。両方に同じものが入っていれば、それは差として現れません。ピュアな側にも幽霊のDNAがあったなら、探している当のものが、突き合わせた瞬間に打ち消されていたことになります。感度の問題ではありません。必要だったのは、ピュアな集団を用意せずに済む方法でした。
骨からDNAが取れない相手について、遺伝学者が沈黙してきたわけではありません。
別の道が試みられてきました。
手元にあるのは、いま生きている人々のゲノムだけです。
発想は単純で比べるものを二つ用意します。
両者を突き合わせ、片方にだけ現れる異質な部分を取り出せば、それが外から入ってきたものだということになります。
ヨーロッパやアジアの人々のゲノムには、ネアンデルタール人由来の断片があります。
では、その交雑を経験しなかった人々は誰か。
長らくその役を担ってきたのが、サハラ以南のアフリカの人々でした。
ネアンデルタール人が暮らしていたのはユーラシアであり、アフリカに残った人々は彼らと出会わなかったと考えられてきたからです。
この集団は、混じりけのない状態がどういうものかを示す標準として、比較の基準に据えられました。
しかしこの方法でわかるのは、出アフリカ後という比較的新しい時代の交雑のみです。
もし人類の祖先がアフリカにいる間に交雑を経験していたとしたら、アフリカの人々のDNAをピュアな人類役とすることが正当性を失ってしまいます。
基準の側にも同じものがあれば、差を取った時点で両方とも消えてしまうからです。
必要だったのは、基準を設けた比べ合いという泥沼からの脱出でした。


























