幽霊DNAの1つは全員が持っていた

ポイント:分析結果は驚きでした。ネアンデルタール人のものでもデニソワ人のものでもない、正体不明の古い幽霊のような遺伝子断片が、調べたすべての集団からまとまった量で見つかったのです。しかも、いちばん多く抱えていたのは、アフリカに留まり、ネアンデルタール人の血をほとんど引かないはずの西アフリカの人々でした。同じ断片が同じ位置に世界中に散らばっている以上、この見知らぬ相手との交雑が起きたのは、人類がまだアフリカを出る前です。
研究チームが材料に選んだのは、1000ゲノムプロジェクトが公開している全ゲノム配列503人分です。
ヨーロッパ、東アジア、南アジア、西アフリカ、東アフリカの人々が含まれています。
ここから区画ごとに、血筋がどこまで遡れば合流するかを調べていきました。
深い区画が見つかったら、解読済みのネアンデルタール人とデニソワ人のゲノムと、突き合わせていきます。
その区画に乗っている変異が、どちらかの配列と一致すれば、相手が判明します。
実際、深いと判定された区画の多くは、どちらかに帰属しました。
ところが、どちらにも一致しない区画が、まとまった量で残りました。
深さと長さから見て、外から来たことはまず間違いありません。
にもかかわらず、照合できる相手がいません。
ゲノムが一度も解読されていない、正体不明の集団から届いたものです。
こうした相手を、遺伝学ではゴースト、幽霊と呼びます。
その量は、調べたすべての集団で、集団ごとの平均にして0.5から1.1パーセントでした。
最も多く持っていたのは、西アフリカの人々でおよそ1.1パーセントでした。
東アフリカの人々がそれに次いで約0.8パーセント、ヨーロッパや東アジア、南アジアの人々では0.5から0.6パーセントほどにとどまります。
ネアンデルタール人由来のDNAをほとんど受け継いでいない人々が、幽霊由来のDNAは最も多く抱えている形です。
もし交雑が、現生人類がアフリカを出たあとで起きたのなら、痕跡は地域ごとにばらけるはずです。
ヨーロッパで起きたのならヨーロッパの人々だけに、アジアで起きたのならアジアの人々だけに。
それぞれ違う相手と、違う場所で交わったことになるからです。
しかし結果は逆で、故郷のアフリカに近づくほど幽霊DNAは増えていきました。
これが意味することは「この交雑が起きたのは、現生人類がアフリカを出るより前」ということです。
アフリカに残った側で量が多いのは、アフリカを出た集団がごく少数から始まり、持ち出せた断片の種類がもともと限られていたからです。
では、相手は誰なのでしょうか。
謎を解明するため研究チームは幽霊由来の断片を、解読済みのネアンデルタール人のゲノムと、デニソワ人のゲノムの両方と比較を行いました。
すると、どちらへの近さも、ほぼ同じでした。
逆を言えば、どちらからも等しく遠い、ということです。
ネアンデルタール人とデニソワ人は、私たちの系統と分かれたあとで、さらに互いに分かれています。
その両方に等しく近いということは、幽霊の系統が枝分かれしたのは、両者が互いに分かれるより前だということになります。
研究チームの計算では、幽霊由来の断片と、現代人の同じ位置の配列とが合流するのは、平均しておよそ83万年前と推定されました。
また、幽霊由来の断片は、ネアンデルタール人由来やデニソワ人由来の断片より短いものでした。
断片は、一族に届いてからの時間が長いほど、組換えによって細かく刻まれていきます。
幽霊由来のほうが短いということは、それが入ってきたのが、ネアンデルタール人との交雑よりも古かったということです。
これらの結果は、人類の祖先がまだアフリカにいた段階で、ネアンデルタール人でもデニソワ人でもない別系統の人類と交雑を起こしていたことを指し示しています。
では、骨も名前もないその相手について、私たちはどこまで手が届くのでしょうか。


























