電子だけでできた結晶に光を当てる

その壁を破ったのは、意外なほど素朴な方法でした。
研究チームが用意したのは、原子数個分の厚さしかない二セレン化タングステン(WSe₂)のシートです。
これを絶縁体の板で上下から挟み、電圧をかければ内部の電子の数を自由に増減できるようにしたうえで、装置全体をマイナス268℃(5ケルビン)まで冷やしました。
あとは光を当て、跳ね返ってくる光を調べるだけです。
光が当たると、シートの中では電子が1個、光のエネルギーを受け取ってもとの居場所を離れます。
そして残るのが、電子が抜けたあとの空席です。
この空席はプラスの性質を帯びるので、飛び出した電子とは引き合う関係にあります。
この光によって生じたプラスとマイナスのペアが整列した電子たちのあいだに割り込むと、きれいに並んでいた配置がゆがみます。
そして、ゆがみはその1点で終わりません。
電子たちは互いに反発し合いながら、ぎりぎりの間隔で釣り合って並んでいます。
だから一つが動かされれば、近くの電子も居場所をずらさずにはいられません。
この揺れが、電子の結晶の震え(フォノン)です。
そしてここで、面白いことが起きていました。
揺れを起こした張本人であるペアは、その揺れを引きずったまま存在することになるのです。
いわば、震えをまとった粒であり、その粒は、光の跳ね返り方にちゃんと自分の痕跡を残していました。
ペアそのものによる信号のすぐそばに、見慣れない信号が並んで現れていたのです。
震えをまとった粒(ウィグナーポーラロン)の信号でした。
決定的だったのは、この2つの信号のずれ幅です。
ずれ幅は、結晶がどれくらい細かく震えているかによって決まります。
つまり跳ね返ってきた光を測るだけで、触れることすらできなかった結晶内部の震え方が読み取れてしまうのです。































