「楽器を続けた脳」は4年後も元気だった
研究チームは2020年に、平均年齢73歳の高齢者に楽器(鍵盤ハーモニカ)を4カ月間習わせる介入研究を実施していました。
そのときすでに記憶力の改善や脳機能の向上が確認されていたのですが、「その効果は一過性のものではないか?」という疑問が残されていました。
そこで今回の研究では、その後も楽器練習を続けていたグループ(継続群)と、途中でやめて他の趣味に移行したグループ(中止群)を比較するという追跡調査を実施。
対象者は、再調査時点で平均年齢76〜78歳。再び認知検査とMRIによる脳画像検査、さらに新たにfMRIを用いた脳機能測定も実施されました。

結果は明らかでした。
継続群では4年前と比べて認知機能にほとんど低下が見られず、脳構造にも萎縮の兆候がなかったのです。
特に違いが顕著だったのは「言語的ワーキングメモリ(記憶を一時的に保持しつつ処理する能力)」と、それに関わる脳の部位「右被殻」です。
中止群では、言語的ワーキングメモリの得点が明確に下がり、右被殻の灰白質体積も有意に減少していました。
一方で、楽器を続けていた継続群では、こうした変化が確認されなかったのです。
さらに脳機能の活動をリアルタイムで計測するfMRIによって、継続群は両側の小脳において活発な活動を維持していることが分かりました。
小脳や被殻は、加齢による影響を受けやすい部位とされており、そこに「維持されている活動」が見られたのは、驚くべき発見です。