ゾウの自制心を、長い鼻で試す

調査に当たって用意したのは、一つの面だけに入口をあけた箱です。
内部には果物が入れられており、入り口から鼻を入れることでとることができます。
研究者たちはまず、中の見えない箱を使い、箱の中の果物を取るには、正面からではなく、鼻を別の面の入口へ回す必要があることを覚えてもらいました。
そのうえで、今度は箱を透明にし、中の果物が丸見えの状態にしました。
研究チームは、目の前に餌が見えれば、つい正面から鼻を伸ばしてしまうのではないかと考えました。
ところが、箱が透明になっても、入口に鼻を入れるまでの時間に明確な違いは見られませんでした。
餌が見えていても、覚えた通りに鼻を入口へ回したのです。
ただこの段階では、餌に向かう衝動がそもそも生じず、慣れた動きを繰り返しただけだとも考えられます。
そこで次に研究者たちは透明な箱を回転させ、入口の場所を変えました。
たとえば、右から鼻を入れれば取れていた餌が、今度は左からでないと取れなくなります。
餌も箱も同じですが、成功する鼻の動かし方が変わる仕掛けです。
すると、入口を変えた直後には、箱に触れてから鼻を入れるまでの平均時間が約2.2秒から約8.2秒へと延びました。
研究チームは、この遅れを、以前の「正解」あるいは「慣れた動き」に向かおうとする反応の表れだとみています。
しかし、同じ入口で課題を繰り返すと、かかる時間は短くなりました。
研究チームは、ゾウが以前うまくいった動きを抑え、新しい取り方へ柔軟に切り替えた証拠だと解釈しています。
さらに、入口の位置を毎回変える課題でも、箱に触れてから鼻先を「正解」の入り口に入れるまで、平均約4.5秒で対応できました。
固定した正解を繰り返すだけでは解けない場面にも、素早く対応していたのです。
うまくいかなくなった習慣をやめることは、人間でも簡単ではありません。
たとえば2018年に発表された人間を対象にした別の研究では、参加者が自宅の鍵とダミーの鍵に色違いのカバーをつけ、数週間生活しました。
その後、カバーを入れ替えると、鍵を選ぶ際の間違いや手間、かかる時間が増えたと参加者が報告しました。
ゾウの賢さは、長い鼻をどう動かすかだけでなく、「いつもの動かし方をやめる」という自制心にも表れているようです。






















