目印の物質を1つも特定しないまま、違いは読み取れる

では、その模様を作っているのは、どの分子なのか。
まず思い浮かぶのは、病気の目印になる物質(バイオマーカー)を見つけ出し、それを狙い撃ちで測る、という方法です。
ところが研究チームが過去の研究を洗い直すと、パーキンソン病や軽度認知障害、新型コロナの目印とされる物質は研究ごとにばらばらで、意見が一致していませんでした。
マニキュアの除光液でおなじみのアセトンのように、いくつもの別の病気で目印として名前が挙がる物質もあります。
1つの分子だけで病気を言い当てるのは、思いのほか難しいのです。
実際今回の測定でも、鼻の匂いの模様を4つのグループごとに平均して重ねてみると、模様はほとんど重なり合い、1つの目立つ山だけでグループを分けられる場所は見当たりませんでした。
一方、測った730の波長を1つずつ比べると、約3分の1でグループ間に差があり、その場所は特定の範囲に固まらず全体に散らばっていました。
病気の違いは1本の目立つ山ではなく、たくさんの小さな違いの組み合わせとして匂いの模様に刻まれていたのです。
光音響の指紋は、物質の名前を1つも特定しないまま、この組み合わせを丸ごと写し取れます。
しかも、その組み合わせを読み取るのに、すべての色は必要ありませんでした。
研究チームは、指紋の違いがよく表れる範囲から候補の色を20あまりに絞り、その中から5つを選ぶ組み合わせを片っ端から試しました。
すると最もよい5色の組み合わせは、色をずらりと連ねて使った場合とほとんど変わらないほど、グループをくっきり分けたのです。
4色に減らすと、十分には分けられませんでした。
鍵を握る5つの色の音さえ聞ければ、グループの違いは読み取れるということです。
今回の装置は、3つのレーザーを束ねて赤外線の色を幅広くなぞる大がかりなものでした。
5つの色だけを出せばよいのなら、ずっと小さく安い装置で同じ仕事ができる可能性があります。
研究チームは、成分を一つずつ分ける大型の分析装置に対する、この方法ならではの強みだとしています。
もっとも、最初に比べたのは24人です。
しかもパーキンソン病も軽度認知障害も高齢者に多い病気なので、匂いの違いのどこまでが病気によるもので、どこからが年齢によるものかは、この人数では切り分けられません。
それでも、体のいちばん見過ごされてきたくぼみに、本人も気づかない体の状態が日々書き込まれ続けており、簡単なテストでそれを見分けられる可能性が出てきたのは確かでしょう。
将来は、綿棒でおへそや鼻をひと拭きするだけの、痛みのないふるい分け検査(スクリーニング)につながるかもしれません。

























