100億倍の光でも、水面の分子は動じなかった

とはいえ、水面の高さに表れないほど小さな変化が、分子のレベルで起きている可能性はまだ残ります。
もし光が熱とは別のしくみで働いているなら、水面の水分子のつながりや向きに何らかの変化が出るはずだからです。
そこで研究チームは、先ほどの分光法を使い、同じ環境で光を当てた水面の分子を調べました。
つながりの強さや分子の向きが変われば、水素結合した分子の信号や、空気側に突き出たOH(どの分子とも水素結合していない酸素と水素の組、フリーOH)の信号の山(ピーク)に、わずかなずれが現れます。そのため、ごく小さな乱れも読み取れるのです。
しかし、3色の光を当てても、水分子のつながりや向きに検出できるほどの変化は見られませんでした。
研究チームはさらに踏み込み、熱ではなく光の電場そのものが水を揺さぶるというしくみを直接確かめることにしました。
使ったのは、1000兆分の1秒単位でごく短く光るフェムト秒パルスで、波長は515nmの可視光と、800nmと1030nmの近赤外線です。
研究チームは光を短い時間にぎゅっと詰め込み、瞬間の強さを10桁以上、つまり100億倍以上にまで引き上げました。
それでも、水面の分子の並びに変化は観察されなかったのです。
これらの結果から研究チームは、純粋な水と空気の境目は可視光に対して驚くほど鈍感だとしています。
複雑な素材で報告された大きな蒸発の増加は、液体の水そのものに備わった新しいしくみというより、光が熱に変わる効果や素材の形の効果で説明するのが最も筋が通る、という見立てです。
ただし今回確かめたのは、純水の平らな水面と、実験で試した範囲の湿度でのことです。
光が水を消し去る力は、水そのものではなく、水を抱えた素材の側に隠れていたのかもしれません。
どうやら水は、スポットライトを浴びても舞い上がらない、案外クールな性格のようです。



















