若きアルバートサウルスのあごに残された「2組の歯形」

アルバートサウルスは「アルバータのトカゲ」という意味の名前で、アルバータが州になった1905年に名付けられました。
今回の化石は2022年に一般の人が見つけて届け出たもので、頭の骨のかけらがバラバラに散らばった状態でした。
化石を掘り出して整えたロイヤル・ティレル博物館の技術者たちが、歯形らしき跡に気づき、詳しく調べるためにアルバータ大学へ送りました。
この化石は、同じ1体のものと分かるアルバートサウルスの頭の骨としては、これまでで最も小さいものです。
一緒に見つかった手足の骨の内部の組織を調べると、この個体は死んだとき少なくとも8歳だったことも分かりました。
体長は約6メートル、体重は約530キロと見積もられており、大人になりきる前の、いわば「10代」の若者です。
問題の歯形は、この若者の下あごに2組残っていました。
そして重要なのは、どちらの歯形にも骨が治った跡がまったく見られなかったことです。
このことから、歯形はこの個体が死んだ頃か、死んだあとに付けられた可能性が高いと考えられます。
つまり歯形は、何者かが死の前後か死後にこの頂点捕食者の体を食べた、あるいは死がいをあさった跡だと考えられるのです。
犯人の手がかりは、骨に刻まれた歯形の「間隔」に隠されていました。
頂点捕食者のあごをかじった「意外な犯人」とは?

研究チームはまず、歯形どうしの間隔と、歯のふちにある細かなギザギザが骨に付けた筋の間隔を測りました。
この間隔を、当時のアルバータにいたことが分かっている恐竜たちの歯と照らし合わせれば、どの恐竜の歯が跡を付けたのかをしぼり込めるからです。
さらにチームは、歯形の傾き(角度)を計算に入れて、間隔をより正確に見積もる新しい方法も使いました。
研究を行った大学院生(修士課程)のジョシュア・ドイオン氏は、学部生のころからこの歯形を調べ、候補となる恐竜を一つずつ消していきました。
その結果、歯形と最もよく一致したのは、ドロマエオサウルス類の歯でした。
ドロマエオサウルス類は、映画『ジュラシック・パーク』で有名になった「ラプトル」のなかまで、小型の肉食恐竜のグループです。
つまり、体の小さなラプトルが、ティラノサウルスのなかまである頂点捕食者を食べていた可能性が高いのです。
ラプトルがティラノサウルス類を食べたり、その死がいをあさったりしていた証拠は、これが初めての記録だといいます。
ただし歯形から分かるのは食べたことまでで、研究チームは、この若者が原因不明のまま死に、その後まもなくラプトルの食事になったという筋書きが最もありそうだと見ています。
ドイオン氏の指導教員で、アルバータ大学の古生物学者フィリップ・カリー氏は「とても小さな恐竜が、ティラノサウルスのような大きくて恐ろしい恐竜を食べていたのですから、これは常識をひっくり返すものです」と話しています。
一方で、歯形の間隔から考えられる犯人は、実はもう1種類だけ残っていました。
それは、アルバートサウルスの赤ちゃんです。
もしそうなら、体長約2メートルの赤ちゃんが、自分よりずっと大きな約6メートルの若者を食べたという「共食い」の出来事になります。
ドイオン氏は、こちらの可能性は低いとしながらも、劇的さではラプトル説に負けていないと話しています。
研究チームは、ラプトルと若いティラノサウルス類が、お互いを襲ったり死がいをあさったりし合う関係にあった可能性が高いと考えています。
恐竜たちの食物連鎖は、「大きいものが小さいものを食べる」だけの一方通行ではなく、これまで考えられていたより複雑だったようです。
博物館で見上げる巨大な肉食恐竜の骨格も、命が尽きたあとは、足元を走り回っていた小さなラプトルの食卓になっていたのかもしれません。























