・オーストラリアの大学に保管されている古代エジプトのパピルスが「愛の呪文」を記したものだと解読された
・パピルスには鳥のような生き物のつがいが描かれており、複雑な恋愛の悩みを解決するための呪文が記されていると推測される
・入手のルートや時期がはっきりしていないため、このパピルスを公表することは略奪行為の補助に繋がると危惧する声もある
恋愛をおまじないに頼るのはいつの時代も同じですが、古代エジプトのほうがより切実だったかもしれません。
フランスにあるストラスブール大学のKorshi Dosoo氏によって、古代エジプトのパピルスに描かれていた内容が「愛の呪文」だったことがわかりました。
そのパピルスはオーストラリアのマッコーリー大学に保管されており、1,300年ほど前、キリスト教がエジプトに普及した時代に書かれたものではないかとDosoo氏は推測しています。
中でも特徴的なのは、中央に描かれている鳥と思わしき「2匹の生き物」の絵です。くちばしを大きく開いた右の生き物に向かって、左の生き物がくちばしを突き出しています。右の生き物は、頭に釘が打ち込まれているようにも見えます。これら二匹を抱きかかえるようにして、大きく伸ばされた人間の両腕のようなものが描かれています。
Dosoo氏は、この2匹は鎖か縄、もしくは性器と思われる突起物で結ばれており、どちらも体の表面を羽毛か鱗のようなもので覆われていると説明しています。また、右の生き物には二つの耳(またはツノ)が付いています。二匹の間で見られる小さな相違点は、性別の違いを表そうとした結果と考え、おそらくは右側がメス、左側がオスだと推測しています。
そしてこの絵を囲むようにして、コプト文字が記されています。コプト語は、当時エジプトを統治していた東ローマ帝国の公用語である、ギリシャ語の影響を強く受けたエジプトの言語の一つです。長い時を経て残っているのは断片のみで、解読できるのは一部だけですが、そこには「我はイスラエルの神キリストを求める」、「汝は解かれよう」、「アダムの子ら…」などと記述されていました。
情報が断片的であるため、呪文の用途を特定することは困難ですが、Dosoo氏は、恐らく「複雑な状況」で使用される「恋愛の呪文」に使われたのではないかと考察しています。複雑な状況とは、三角関係や、「好きになってはいけない相手を愛してしまった」といった状況です。同じくエジプトで見つかった、愛の呪文を記述したキリスト文学の文献では、「女性がまだ若く家族に恋愛を許されていない」「女性にすでに夫がいる」といった描写が多く存在します。
当時、コプト人の若い女性には家の中に閉じ込められて、両親が決めた相手と結婚しなければなりませんでした。若い女性に自由が無い時代だったからこそ、魔術が広く用いられ、恋愛の悩みを解決する呪文に人気があったのではないかと推測されています。
では「恋愛の呪文」が描かれたパピルスは、彼らの間でどのように使用されていたのでしょうか。一説では、魔術師が依頼人の願いを叶えるために行っていた儀式の中で、唱える呪文を記した呪文書だったと考えられています。そして今回の二匹の生き物の絵は、儀式の雰囲気を増し、呪文の効果を高めるためのものだったとのことです。
しかし、今回のパピルスには一つ問題があります。マッコーリー大学に保管されるようになった経緯が、しっかりとは把握されていないのです。出所の判然としないパピルスを公表することは、遺跡から古美術品を盗んで販売する者たちを手助けすることにつながるため、多くの学者が疑問を呈しています。
盗んで許されるのは人の心だけ。それぞれの古美術品のルーツがより尊重され、適切に管理されるようになることを祈るばかりです。
via: livescience / translated & text by まりえってぃ