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今「腸の多様性」が減少している。「移住」が人の腸内環境を激変させることが判明

2018.11.11 Sunday

Credit: ZME Science
Point
・移住による食生活の変化が、ヒトの腸内細菌叢を短期間で劇的に変えることが判明
・腸内細菌の多様性が失われ、酵素が変化することで、肥満などの健康被害に繋がる
・腸内細菌の多様性の喪失が、世代を経るごとに度合いを増す

移民問題は世界のどの地域でもデリケートな話題の一つですが、移住によってヒトの腸内環境が劇的に変化することが最近の研究で明らかになりました。

研究を行ったのは、ミネソタ大学とSomali, Latino, and Hmong Partnership for Health and Wellnessの共同チーム。東南アジアから米国への移住者を対象に調査したところ、彼らの「腸内細菌叢」が移住からまもなく「アメリカナイズ」されることを発見しました。

US Immigration Westernizes the Human Gut Microbiome
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(18)31382-5

「腸内細菌叢」とは、動物の腸内で一定のバランスを保ちながら共存している多種多様な腸内細菌の集まりのことです。ヒトの腸内には、数百種類の微生物が数兆個も存在します。これらの微生物には300万個の遺伝子が含まれており、その数はなんとヒトの遺伝子の150倍。腸内細菌は、身体だけでなく心の健康にとっても重要な役割を果たしていることが分かっています。

論文の上席著者であるミネソタ大学のダン・ナイツ氏は、「移住者は米国に到着すると、すぐにもともと腸内に持っていた母国の細菌を失い始め、欧米人が共通して持つ異質の細菌を獲得します。新しい細菌は、母国の細菌の損失を相殺することができないため、細菌の多様性は著しく失われてしまいます」と説明しています。

これは、決して良いことではありません。欧米で社会問題化している肥満は、欧米人の腸内細菌叢と関連しています。一方で、野菜や果物を多く摂取する地域の人々は、多様で健康的な腸内細菌叢を持っているために、こうした悩みには縁がないと考えられてきました。研究チームは、腸内細菌叢と肥満の関係を明らかにすることで、米国で細菌問題になっている、モン族やカレン族などのタイからの移住者における肥満問題の解決に役立てたいと考えました。

研究チームは、タイからの移住者、タイで暮らす現地の人々、白人の米国人の、大人と子どもの腸内細菌叢を調べ、これらのデータを比較しました。加えて、タイから米国に移住したカレン族の難民19名の追跡調査を行い、時間の経過とともに彼らの腸内細菌叢がどのように変化するかも調査しました。

その結果、わずか半年〜9ヶ月ほどの短期間のうちに、移住者の腸内細菌叢がすっかり変化してしまうことが明らかになりました。特に注目すべきは、「欧米派閥」のバクテロイデス属の細菌が、「非欧米派閥」のプレボテラ属の細菌に、みるみるうちに取って代わってしまったことでした。

また、子どもの腸内細菌叢は、大人よりもずっと速く変化しました。このことは、腸内細菌の多様性の喪失が、世代を経るごとに度合いを増すことを意味します。これは過去にヒト以外の動物ですでに示されていたことでしたが、ヒトも同じであることが証明されたのは初めてです。

さらに、腸内細菌叢の変化は、細菌が持つ酵素の変化も意味します。酵素が変われば、消化できる食材が変わり、食事が健康に与える作用に影響がもたらされます。これは、常に悪いことであるとは限りませんが、腸内環境の欧米化が移住者の肥満と結びついていることもまた事実。ナイツ氏らの発見は、移民にとどまらず広く肥満やメタボリック症候群などの治療への活用が期待されています。

食事内容の変化にともなって腸内環境が変化し、多様性がどの程度失われるのか、またその変化がどれほどの速度で進むのかには、目を見張るものがあります。今後、腸内を含む「身体のグローバル化」が私たちにもたらすものは一体何なのでしょうか。

「第六感」は腸から来ていた? 腸細胞にもシナプスが存在することが示唆される

via: zmescience / translated & text by まりえってぃ

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