■「監視されている」と感じることで「うつ病」や「PTSD」と同様の症状に苦しむことがある
■監視によるストレスは強く、専門家は「いかなる警察の活動よりも強力な抑止力になる」と語っている
■ひとときでも全くデバイスなどとつながっていない時間を作れば、監視による不安の軽減につながる
こうしてあなたがウェブサイトを見ている瞬間を、cookies(クッキー)が見ています。あなたがどのサイトを訪れ、何をクリックしたのかは彼にはお見通しなのです。テクノロジーの発達に伴い、このように監視の目は私たちの生活の中に深く入り込んできました。監視カメラも、個人が特定できるほどにまで精度を上げてきています。
しかし、近年このような「監視の目」が、私たちの脳に悪い影響を与えてしまうことが分かってきました。監視の目の存在により「うつ病」のような症状を呈する人や、中には「PTSD」に似た症状を発症する人もいるというのです。
監視が私たちに与える影響は、私たちがどの程度「見られている」ことに気がついているのか、また、監視の目的が何なのかによって異なってきます。ブロック・チザム氏は、その影響について調査を続けてきた臨床心理士の一人です。
チザム氏いわく、反政府組織への監視が厳しいエチオピアにおいて、監視下に置かれた人々は突然家族や自分が逮捕されることをイメージしてしまったり、PTSDと同様の同様の症状を訴える者もいたといいます。そこで「未来」について怯えることをフラッシュ・バックならぬフラッシュ・フォワードと呼ぶこともあるのだとか。
また、この現象は人間だけに当てはまるものではありません。子どものラットは母親からの「監視」には安心感を覚え、捕食動物からの「監視」には脅威を感じ、ストレスにさらされてしまうでしょう。
アムネスティ・インターナショナルのジョシュア・フランコ氏は、「監視によって引き起こされる『恐れ』や『不信感』は、いかなる警察の活動よりも力強い抑止力になるものである」と語っています。監視による無言の圧力により、人々は自分の行動を自ら律し始めるのです。
冒頭で述べたように、民主主義の社会においても監視の目は数多く存在しています。しかし、それを受け入れられる「程度」は人によって異なります。たとえばNetflixなどの動画配信サービスが私たちの視聴履歴をトラッキングして、次に観る動画を勧めてくることがありますが、これに不快感を覚える人は少ないのではないでしょうか。
いずれにせよ、現代社会において完全に監視の目から逃れるのは至難の業です。すべてのデバイスを壊して森に引きこもれば可能なのかもしれませんが、それは現実的ではありません。私たちはこの時代に生きるうえで、ある程度の監視やトラッキングは覚悟して生活していかなければなりません。
チザム氏は、24時間は無理かもしれませんが、いっときでも何とも結びついていない「アンプラギング(Unplugging)」の時間を作ることは、監視の不安を軽減する上で有効であると語っています。
「監視されていること」が脳に与える悪影響は、確実に存在しています。「便利さ」や「安全」と引き換えに、私たちは多くの「監視の目」を生活に取り入れてしまいました。しかし、だからといってこの先もずっとそのような監視を受け入れ続ける必要はありません。選挙において、より「透明性」を大事にする候補者に投票するなどして、私たちが声を上げる手段もまた存在しているのです。