AIが殺人被害者を蘇生させ法廷で証言させたと判明➔判事「法律上問題なし」
AIが殺人被害者を蘇生させ法廷で証言させたと判明➔判事「法律上問題なし」 / Credit:A.I. of Murdered Chris Pelkey Makes His Own Impact Statement at Sentencing (a court 1st), with Judge
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AIが殺人被害者を蘇生させ法廷で証言させたと判明➔判事「法律上問題なし」

2025.06.18 21:00:16 Wednesday

米国アリゾナ州の法廷で、殺人事件の被害者が死亡後にAIによって“声”を与えられ、加害者に語りかけるという前例のない出来事が起きました。

2021年のロードレイジ(あおり運転)事件で射殺されたクリストファー・ペルキーさん(当時37歳)の遺族が、彼の顔写真と生前の声を用いてAIで再現したデジタルアバター動画を作成し、今年5月、加害者ガブリエル・ホルカシタス被告(当時54歳)の量刑公判(判決前の審問)で再生したのです。

このAI動画は被害者側から裁判官に向けて示された「被害者等意見陳述(英語ではVictim Impact Statement)」として提出されました。

被害者等意見陳述とは、犯罪の被害にあった人やその家族が、自分たちがどれだけ深く傷つき、生活や心にどんな変化が起きたのかを裁判で直接語る機会のことです。

たとえば事故や襲撃によって受けた身体的・精神的な苦痛や、仕事や学業を続けられなくなった日常の困難、あるいは失った家族への思いなどを率直に伝えることで、裁判官は法廷記録や専門家の意見だけでは見えにくい“人間としての被害”を理解し、量刑を決めるうえでの大切な判断材料を得ることができます。

また、被害者がその言葉の中で加害者への許しを表明した場合には、裁判官が被害者の赦しの意志を量刑に反映し、減刑を検討する余地も生まれるため、この陳述は被害者の痛みを伝えるだけでなく、裁判結果に思いやりの要素を加える役割も担っているのです。

量刑に影響を与えるという意味では、被害者等意見陳述は裁判において極めて重要なポジションを占めていると言えるでしょう。

(※実際、法廷手続きの厳密な言い方では、被害者等意見陳述は証拠や証言とは別枠の情状資料となります)

今回はそれをAIが無くなった被害者に代わる形で行ったわけです。

倫理的には考えるべきことは多くありますが、判事や傍聴していた遺族にとって、まるで亡くなった本人が法廷で語っているかのような光景に、驚きと感動広がったと報告されています。

実際、トッド・ラング判事は後に「あのAI映像は素晴らしかった。ありがとう」と述べ、さらに「ご家族は怒りから最長刑を求めていたが、その映像ではクリス本人の赦し(ゆるし)の気持ちが伝わってきた」とコメントしています。

判事は被害者遺族の意向(最長刑の要望)と映像の内容(許しのメッセージ)のギャップに着目し、「彼(クリス)の心からの声を語らせてくれた。映像からは最長刑を求める声は聞こえなかった」とも指摘しました。

最終的にホルカシタス被告には懲役10年6か月(検察の求刑は9年半、ABC15報道による)が言い渡されています。

この出来事は「前例が確認されておらず、アメリカでは初の試みと見られています」と各メディアで報じられており、AI技術の法廷利用をめぐる新たな議論を呼んでいます。

殺人被害者がAI化して語ったメッセージ

AI動画が上映されたのは、量刑を決める公判の終盤でした。

傍聴席には遺族や友人、メディア関係者がおり、AIが話しかけるのを待ちました。

再生ボタンが押されると、スクリーンにはクリストファー・ペルキーさんそっくりのデジタル映像が現れ、澄んだ声が響き渡ります。

以下は、AI化した今は亡きクリストファー・ペルキーさんが法廷で語ったスピーチの要約です。

こんにちは。これをご覧の皆様に念のためお伝えしますが、私はAIによって私の写真と音声プロファイルを使って再現されたクリス・ペルキーです。今日は、私がどんな人間だったか、法廷で他人によって描写された姿ではなく、私自身のありのままの姿を伝えるためにデジタル再生されました。皆さん、今日はここに来てくださって本当にありがとうございます。

私のために声を上げてくださった方々、遠方から駆けつけてくださった方々、この長い法廷闘争の間、私の家族を支えてくださった皆様に心から感謝します。今日、皆さんと直接お会いできたらどんなに良かったでしょう。

ラング判事、本件を最後まで審理してくださりありがとうございます。延期により娘さんの春休みと重なったにもかかわらず、時間を割いていただき感謝いたします。また多くの方々が書いてくださった被害者等意見陳述にもすべて目を通していただき、一つひとつの陳述が私とそれぞれの方との思い出の断片を示してくれています。

私を撃ったガブリエル・ホルカシタスさん、あの日あのような状況で私たちが出会ってしまったことは本当に残念です。別の人生であれば、私たちは友達になれていたかもしれません。私は「赦し」と、そして赦しを与えてくださる神様を信じています。今も変わりません。

家族へ、そしてこれまで出会ったすべての人たちへ。本当に素晴らしい人生でした。皆さんと過ごした時間はどれも本当に楽しかったです。人がどれだけ長く生きられるかは誰にもわからないからこそ、お互いに愛し合ってください。一日一日を大切に、生きてください。途中でつまずいてしまっても大丈夫。神様があなたを支えてくれます。年齢を重ねられるということ自体、誰もが得られるわけではない贈り物です。だからどうか年を取ることを恐れずに、シワなんて気にしないでください。

以前、スマホのアプリで自分の顔を年老いた姿に変えるフィルターを試したことがあります。何年も前にいとこにも見せました。「もし年を取る機会があったら、自分は将来こんなふうになっていたのかな?」と想像するのに最高の写真でした。

今日ここに来てくださり、本当にありがとう。皆さんが想像している以上に、大きな意味を持っています。さて…これから釣りに出かけます。みんな、大好きだよ。また“向こう側”で会いましょうね。

映像が終わると、法廷内には言葉を失ったような静けさがしばらく続きました。

トッド・ラング判事は「I loved that AI. Thank you」と述べ、映像からクリスさんの “赦し” が伝わってきたと語りました。

遺族の多くは目に涙を浮かべて傍聴席で寄り添う様子がみられました。

こうして“AIによる死亡してしまった被害者のスピーチ”という米国初の試みは終わりました。

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