ここ50年間で「殺人セリフ」が増加していた
映画のセリフは、時代を映し出す鏡のようなものです。
ハリウッドでも日本でも、現代の映画と数十年前の映画を見比べてみると、口語表現やスラングが変化していることは明らかでしょう。
しかし今回の研究で明らかになったのは、「単なる言葉の変化」ではなく、暴力的な言葉、特に「殺人に関連する言葉」の大幅な増加でした。
研究チームは、1970年から2020年の50年間に公開された16万6534本の映画のセリフを分析しました。
世界最大規模の映画字幕データベース「OpenSubtitles.org」から映画の字幕データを収集し、コンピュータによる言語解析技術を用いてセリフ内の「殺人に関する動詞」を検出したのです。
具体的には、「kill(殺す)」「murder(殺害する)」「slay(殺害する)」「assassinate(暗殺する)」といった単語の出現頻度を計算し、その変化を統計的に分析しました。
重要な点は、キャラクターが「殺してやる!」というように、実際に殺人を犯すことについて直接的に話している場合のみをカウントしたことです。
なので、「彼は結局、殺されなかった」とか「奴が殺したんだろうか?」といった否定文や疑問文の中に出てくる言葉は除外しました。

そして分析の結果、映画のセリフにおける「殺人を示唆する動詞」の使用は過去50年間で1.7倍以上に増加していることが判明したのです。
さらにこの増加傾向は、犯罪やホラー、サスペンス映画に限らず、ヒューマンドラマやコメディ、ファンタジー、ファミリー、ラブストーリーなど、あらゆるジャンルの映画に共通して見られました。
これは予想外の結果であり、「暴力的な言葉は暴力をテーマとする映画でのみ増える」という一般的な考えを覆すものでした。
また、殺人に関するセリフを発するキャラクターも男性・女性を問わず、両方で増加しています。
では、なぜ映画の中で殺人セリフが増えているのでしょうか?