・親は子どもの前で、ネガティブな感情を抑圧するよりも、健全な方法で表す方が良いことが判明
・親がネガティブな感情を抑圧すると、子どもたちはそれを敏感に察知して反応性が下がるが、これは特に母親の場合に顕著
・親が心の葛藤やそれを解決する過程を子どもにさらけ出すことで、子どもは自分の感情を統制し、問題を解決することを学ぶ
子どもの前で夫婦喧嘩をしてはいけない—。
この古くからの格言が、実は疑わしいことが明らかになりました。親は子どもの前で、ネガティブな感情を押し殺すよりも、健全な方法で表す方がずっと良いらしいのです。
この説を提唱したのは、ワシントン・ステート・ユニバーシティ・バンクーバーで人間の発達を研究するサラ・ウォーターズ氏ら。人が自分の感情をどう抑圧し、そのことが親子の相互作用にどう影響するのかを探ろうとしました。論文は雑誌“Emotion”に掲載されました。
http://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2Femo0000527
研究チームは、サンフランシスコに住む7〜10歳の子を持つ父親と母親、計109名を対象にした実験を行いました。ジェンダーによる差異を見るため、被験者らは、父親と母親の数がほぼ同数になるように2つのグループに分けられました。
まず親たちには、聴衆の前でスピーチを行い、聴衆からネガティブなフィードバックを与えられるという、ストレスの大きいタスクが与えられました。その後、親たちは自分の子どもと一緒に、ブロックを組み立てるアクティビティを行いました。
子どもたちには指示書が配布されますが、彼らはブロックに触れることができません。代わりに、親が子どもの指示でブロックを組み立てるのです。親たちには指示書を見ることが許されませんでした。ブロックを完成させるためには、親子は互いのパートナーとして上手く協力し合う必要があります。アクティビティの間、一方のグループの親は感情を抑えるよう、もう片方のグループの親は自然に振る舞うよう指示されました。
研究チームはこの様子を撮影したビデオから、親子間の交流の反応性・温かさ・質を観察し、親が子どもをどのように誘導するかを探ろうとしました。同時に、親子の身体にセンサーを装着し、心拍数やストレス値などを計測しました。こうして集めたデータから、感情を抑圧しようとする親の振る舞いが、共同活動において彼らをより劣ったパートナーにすることが明らかになりました。感情を素直に表したグループに比べて、親が子どもに与えた誘導が少なかったのと同時に、子どもの親に示す反応も少なかったのです。「まるで親の感情が子どもたちに伝染しているようだった」と、ウォーターズ氏らは表現しています。
また、母親が感情を抑圧している場合の方が、父親がそうである時よりも、子どもたちが敏感に反応することが分かりました。参加した父親の数が少なかったため深い考察を差し控えてつつも、一般的には男性は女性に比べて感情を抑圧する傾向が強いので、父親が感情を抑えている様子は子どもたちの目に特異なこととしては映らないからではないかと、ウォーターズ氏らは推測しています。
実際、子どもたちは親が思っている以上に親が発する「感情的残存物」を拾い上げることに優れています。そして、何かネガティブなことが起きたと察知しているのに、親がそれを言葉に出さずに何でもない振りをしていると、子どもたちは混乱します。「子どもたちに感情の変遷をすべて見せましょう。そうすれば、そこから子どもたちは、自分自身の感情を統制し、問題を解決することを学ぶことができます。あなたの怒りを子どもたちに見せ、状況を改善するためにその問題にあなたがどう対処するかを伝えることが最善の方法です」と、ウォーターズ氏は語っています。
子どもの前ではつい、元気でハッピーな自分でいたいと頑張ってしまいがちですが、彼らもいずれは大人になり、人がポジティブな感情だけで生きている訳ではないことを学びます。困難や葛藤に向き合い、対処し、解決し、時には妥協し、折り合いを付けながらも人生の舵を切っていく—。そんなカッコ悪くてもありのままの姿をさらけ出してこそ、親は子どもにとっての「真のお手本」になれるのかもしれません。
via: news.wsu. / translated & text by まりえってぃ