昔は魔法でしかありえないと思われていた空中浮遊も、ドローンなど最近の技術にかかれば夢ではありません。
しかし、翼もローターもジェットもないのに、空中浮遊ができる装置があるのはご存知でしょうか。今回紹介するのは、音波を使った音響トラクタービームによる空中浮遊技術のブレイクスルーです。
この技術で人間も宙に浮けるかも?
Acoustic Virtual Vortices with Tunable Orbital Angular Momentum for Trapping of Mie Particles
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.120.044301
SFのように感じられますが、ブリストール大学のエンジニアが、世界一強力な音響トラクタービーム(物をつかめるビーム)をつかって、音の波長よりも大きな物質を安定的に保持できることを証明しました。
つまりこれまで考えられていたよりも、ずっと大きな物体を浮かせることができるようになったのです。これで人間を浮かせることも、理論上は可能となりました。
音響トラクタービームは音(厳密には音波)を使って物体を空中に保持します。磁気浮上というものもありますが、音響浮上は液体も固体も扱えるためより有用です。
音響トラクタービームは安定性を失うこと無く大きなものを浮かせることは基本的に不可能であり、小さな物しか浮かせられないと信じられていました。その大きさとは、音の波長と同じくらいまでです。それ以上の大きさだと、不安定になった物質は制御できずに回転してしまいます。
Physical Review Lettersに今週掲載された研究では、非常に音圧が大きいけれどもその中心は静かな竜巻様の構造を作り出す新しい技術が紹介されました。
この構造を作り上げている、素早く変動する音響の渦の方向を変えることで、回転率とトラクタービームの安定性を制御できるのです。
いったんビームが安定すると、この「音響竜巻」の中心にある静かな核を大きくすることができ、それによってより大きな物体を保持することができました。
「音響研究者は長年大きさの限界に不満をいだいてきました。なので、それを克服する方法を見つけたことに満足しています」論文の筆頭著者であるブリストン大学機械工学部のアシエル・マルツォはそう言います。
人の浮遊
この研究で行われた実演では、エンジニアたちが40kHzの高さの超音波を使って、音響の渦を作りました。その中心の静かな核は、合成樹脂でできた2センチの球体を保持できました。
この球体は音波の波長の2倍の大きさがあります。これは、今までトラクタービームによって安定的に保持された物体のなかで最大の物となります。
研究チームはこの技術には多くの実用的な応用の可能性があると信じています。
研究を指揮した機械工学部の超音波学教授、ブルース・ドリンクウォーターは言います。「私が特に楽しみにしているのは、コンタクトレンズの生産ラインでの応用に関してです。なぜなら、触れることなく作り上げる繊細な製品だからです」
マルツォは「この技術は多くの新たな応用への扉を開くと考えています」とこの考えに賛同しました。その中には、薬剤カプセルや微小外科装置のような医療機器の生産も含まれるでしょう。
2センチメートルの球体よりも遥かに大きな物体や、もっといえば人を浮遊させる可能性について、思いめぐらせる人もいるでしょう。そのシミュレーションを作った上級研究員であるミハイ・カリープによると、「将来、より音響出力をあげることで、より大きな物体を保持することも可能になるでしょう。低い波長を使うと、実験で音が聞こえるようになり人にたいして非常に危険である可能性を考えれば、それが唯一の方法でしょう。」
もちろん、まだ現存する技術で人を浮かせられることがシミュレーションで証明されたわけではありません。
研究が示しているのは、人が聞こえるよりも遥かに高い音波を音響トラクタービームとして使うことに成功していて、音波の波長よりも大きなものを安定的に浮かせられたということです。
高い音波、より大きな対象物、そしてさらなる安定性、これらを目指すことがこの研究を一段と進める唯一の道のようです。
via: journals.aps, Futurism/ translated & text by Nazology staff