なぜ“男=高身長”は世界共通なのか

人間の形質には男女で異なるものが多く存在し、身長もその一つです。
平均で13 cm程度の差が再現性高く見られる身長は、性差の原因を探る絶好のモデルでした。
「身長は男女で大きく安定した差があり、さらに広く測定されているため、性差の基盤となるゲノム要因を調べるのに価値あるモデルです」と本研究リーダーの一人であるマシュー・オーチェンズ博士は述べています。
しかし、これまでそのメカニズムは完全には解明されていませんでした。
注目されたのがSHOX(ショックス)という高さ(身長)の決定に関わる遺伝子です。
SHOX遺伝子は性染色体であるX染色体とY染色体の両方に存在し、骨の成長を促す重要な役割を持ちます。
しかし女性の場合、2本あるX染色体のうち一方は「不活性化」されてSHOXの発現(働き)が男性に比べて低く抑えられていることが分かってきました。
言い換えれば、女性では機能するSHOX遺伝子が実質1つ分しかないのに対し、男性はXとYに1つずつ(計2つ)活発なSHOX遺伝子を持つため、その分だけ骨が伸びやすいのではないかという仮説です。
さらに過去の報告では、性ホルモンがほとんど分泌されない特殊な症例においても、XYの性染色体を持つ人はXXの人より平均で約7 cm身長が高かったとされています。
また、男性に必要なSRY遺伝子(Y染色体上にある性決定遺伝子)が例外的にX染色体上に載っている46,XXの人(見た目は男性)では、典型的な46,XYの男性より身長が低くなることも報告されています。
これらのケースは、性ホルモンの有無に関係なく性染色体そのものの違いが身長差を生みうることを示唆するものです。
以上のような背景から、本研究では男女の身長差について性染色体(XとY)の遺伝的要因に焦点を当て、その影響を明らかにすることが目的とされました。