ホルモンだけじゃ説明できない“3 cmの謎”を追え

研究チームはまず、米国と英国の大規模バイオバンク(遺伝子データベース)3つから集めた約100万人分のゲノムおよび診療データを分析しました。
この中には、通常とは異なる数の性染色体を持つ1,225人(全体の0.13%)が含まれていました。
例えば女性なのにX染色体が1本しかない45,X(ターナー症候群)や、男性でX染色体が2本+Y染色体1本の47,XXY(クラインフェルター症候群)、逆にY染色体が2本ある47,XYY型の男性、X染色体が3本の47,XXX型の女性などです。
研究者たちはこれら性染色体異数性(SCAs)の人々を解析モデルに組み入れることで、性染色体の本数や性ホルモンの影響など五つの要因が身長に与える寄与度を統計的に分離して評価しました。
その結果、Y染色体が1本増えることによる身長への寄与は、X染色体が1本増える場合よりも有意に大きいことが明らかになりました。
具体的には、X染色体をY染色体に置き換える(つまり女性型から男性型の染色体構成に変わる)だけで身長が平均3.1 cm高くなったのです。
重要な点は、この効果が性ホルモンなど他の性差要因とは無関係に現れたことでした。
男性(46,XY)は女性(46,XX)よりY染色体由来の恩恵で約3 cm強高く成長する計算になり、これは男女の平均身長差13 cmの約23%に相当します。
言い換えると、男性が女性より高い理由の約4分の1はY染色体上の遺伝要因で説明できるということです。
研究チームは、このY染色体効果の主な担い手が前述のSHOX遺伝子であると考えています。
SHOXは男女双方に2コピー存在しますが、女性ではそのうち1コピー(不活性化されたX上)が十分に機能しないため、男性のほうが実質的にSHOXの発現量が多くなります。
今回の大規模解析の結果もまさに、「女性ではSHOXの発現が低いために男性より身長が伸びにくい」という仮説を裏付けるものでした。
実際、研究ではY染色体上の遺伝子発現が増えることでX染色体の場合より高身長化に繋がることが示されており、これはSHOXのようなXとYに共通する遺伝子の働きによる可能性があります。
さらに補足すると、SHOX遺伝子に変異(先天的な損傷)があると男性のほうが女性より身長への影響が大きい傾向も示されており、SHOXの効果が性別で異なることを示す追加的な証拠となっています。