「言葉にならないサイン」の重要性
一方、音声クリップに入っていた声のイントネーションや声の大きさといった非言語シグナルは、被験者が実際に感じていた感情と一致していた。
実は、研究チームはこの実験を行う以前に「感情に関連しない語彙が、被験者の気分を表すことがあるか?」を調べるため、ある予備分析を行っていた。
その結果、”you”や”we”といった社会性に関係する語彙の使用はポジティブな感情に、”minus”や”number”といった数字に関係する語彙の使用はネガティブな感情に、それぞれ結びついていることが分かったが、その結びつきはいずれも弱く感情を測るツールとしては脆弱だった。
さらに研究チームは自己申告のアンケートでは把握できない、つまりは被験者自身も気付いていない感情を、語彙選択が表している可能性も指摘している。
また”pretty”のように、辞書的にはポジティブな意味(「綺麗な」)を表す語彙が、文脈によってはネガティブな意味になる場合(”pretty terrible”「とても酷い」)もある。
こうした制限があるとはいえ、この研究は心理学研究に用いるツールの有効性を確かめ「計測していると思っているものを本当に計測しているか?」を問い続けることの重要性を示している。
対面を伴わないコミュニケーションや音声以外でのコミュニケーションが増えつつある今、相手の発話に含まれる言外の意味を汲み取り、相手の気持ちを推し量るスキルはますます洗練される必要があるのかも。
同時にそうしたコミュニケーションにおいて、非言語シグナルの伝達をサポートする仕組みがあれば便利そうだ。
コトバとはウラハラな感情を抱きがちな私たち…。とても面倒くさくて厄介だが、その複雑さこそが人間を人間たらしめているのかもしれない。