
■盲目の人は、色の概念と抽象概念をどちらもATL背外側部で処理することが判明■目が見える人は、知覚概念をATL背外側部で、抽象概念をATL内側部で、それぞれ処理する■盲目の人は、色の知覚経験を持たない代わりに、言語を通じて豊かで正確な色の概念を形成する
「赤」と「正義」という単語をそれぞれ思い浮かべてみよう。
この時、私たちの頭の中では異なる処理が行われている。色を表す「赤」という単語は、目の錐状体細胞から出る信号に結びついた知覚経験として理解される。
これに対して、抽象概念である「正義」という単語は、言語を通じて理解される。では、目が見えない人々は、「赤」という見えない概念を一体どうやって理解しているのだろう?
ハーバード大学のアルフォンソ・カラマッツァ氏らが、目が見える人は色の概念(「赤」など)と抽象概念(「正義」など)を異なる脳領域で処理するのに対し、盲目の人は両方を同じ脳領域で処理することを、このほど明らかにした。
論文は雑誌「Nature Communications」に掲載されている。
https://www.nature.com/articles/s41467-018-07574-3
抽象概念を司る脳領域で色の概念を理解
研究チームは、生まれつき目が見えない被験者12名と、目が見える被験者14名の脳画像撮影を実施。両者に馴染みがある具象概念(「カップ」など)、盲目の人が知覚できない視覚概念(「赤」や「虹」など)、知覚とは無関係の抽象概念(「自由」や「正義」など)のそれぞれに関連した単語の音声を被験者に聴かせ、その間の脳活動をfMRIで記録した。

その結果、すべての被験者において、何らかの知覚をともなう具象概念の認識が側頭葉前方部(ATL)内側部で行われるのに対して、単語の意味に基づいて理解され、知覚をともなわない抽象概念の処理はATL背外側部で行われることが明らかになった。
これらに対し、色に関する単語の場合は、目が見える被験者と盲目の被験者で違いが出た。前者ではATL内側部での活発な活動が見られたのに対し、後者ではATL背外側部で活発な活動が行われていたのだ。つまり、目が見えない人は、通常は知覚とは関係のない抽象概念を司る脳領域で、色の概念を理解しているということである。