
Point
■鼓膜の奥の液体を探知することができるスマートフォンアプリが開発された
■紙製のじょうごを通してさえずり音を流し、その反響の仕方から、鼓膜内の液体の有無を判定
■中耳炎などの耳の感染症を家庭で早期に診断することで、痛みを伝えることが難しい子どもへのすばやい治療が可能に
親たちがよく子どもを病院へ連れて行く理由の一つが、耳の感染症だ。それは、鼓膜の奥の中耳内部に液体が溜まり、感染することで起きる病気で、中耳炎に発展するケースもある。痛みを伴うだけでなく、音が聞こえにくくなるため、言葉を学んでいる真っ只中の子どもに特に悪影響が生じる。
こうした症状は、周囲が気づきにくく、小さな子どもにとってどこがどう痛いかを説明することは困難だ。
そこで、ワシントン大学の研究チームが開発したのが、鼓膜の奥の液体を探知することができるスマートフォンアプリだ。必要なのは、スマートフォンのマイクとスピーカーと、1枚の紙だけだそう。
論文は、雑誌「Science Translational Medicine」に掲載されている。
https://stm.sciencemag.org/content/11/492/eaav1102
紙のじょうごを組み立ててさえずり音を流すだけで…
その仕組みは、スマートフォンが出す一連の微かなさえずり音を、紙で作った小さなじょうごを通して耳へ流し、さえずり音が鼓膜に弾かれてスマートフォンへ返ってくる仕方に応じて、内部の液体の存在を判定するというものだ。
紙にはじょうごを作るためのガイド線が引かれていて、線に沿って切ったり折ったりするだけでOK。完成したじょうごをスマートフォンに取り付け、外耳に充て、アプリのボタンを押すと、0.15秒間ほどの音が連続して流れる。じょうごを通って音波は鼓膜に跳ね返され、再びじょうごを通ってスマートフォンに戻ってくる。この音波と、もとの音波をマイクが拾う。

この時、鼓膜の奥に液体があるかどうかによって、跳ね返って来る音波がもとの音波を異なるやり方で干渉するのだ。水を入れたコップを叩いた時に、水の量に応じて違う音が鳴るのと同じだ。
中に液体がなければ、鼓膜が震え、さまざまな音波を跳ね返す。これらの音波が、元のさえずり音を優しく邪魔することで、全体の音を広く浅く降下する。
これに対して、鼓膜の奥に液体があると、鼓膜が上手く震えないため、元の音波が弾かれて戻ってくるのだ。その音波は元のさえずり音をより強く邪魔するため、シグナルが狭く深く降下する。