- アメリカで、「仮死状態」を用いた外科手術が世界で初めて行われた
- 体内の血液を氷温の塩水溶液と入れ替え、体温を10〜15度まで急速に落とすことで仮死状態をつくる
「仮死状態」とは、正式な医療用語で「EPR(emergency preservation resuscitation=緊急保存と蘇生処置)」。体内の全血液を塩分を含んだ氷温溶液に入れ替えて、体温を10〜15度まで急速に落とした状態を指します。
メリーランド大学メディカル・スクール(米)にて、患者をこの「仮死状態」においた外科手術が世界で初めて実施されました。
体温を10〜15度まで下げる
仮死状態になり心臓の動きが停止すると、血液の半分が失われるため、その状態で確保できる手術時間はせいぜい5分。生存率も5%を切る、大変危険な状態です。
およそ37度の平熱状態では、体内の細胞が、エネルギーを生産するために絶えず酸素の供給を必要としています。そして脳は、酸素が供給されなくなると、5分ほどで回復不能のダメージを負ってしまいます。
ところが、体温を急速に下げると、脳は細胞内のエネルギー生成活動を緩めるか停止させます。すると結果的に、脳は酸素をほとんど必要としないまま、仮死状態に入るのです。
これによって、平熱時は5分しか確保できない手術時間を2〜3時間まで伸ばすことができます。術後は、体内に血液を戻し、体温を高めることで、心臓の動きを再開させるという仕組みです。
しかし今回の手術に関して、病院側は情報公開に非常に気を使っているようです。
仮死手術の成功についてはまだ公表されておらず、研究主任のサミュエル・ティッシャーマン氏は、「結果や手術内容、術後の経過も含めて、2020年末に発表する予定」と話しています。
続けて「仮死手術が一般化されれば、外科手術の幅も広がり、これまで対処できなかった外傷にも対処できるようになる」と述べました。
一方で、問題も数多く指摘されています。
仮死状態があまり長く続くと蘇生困難に陥ったり、また、体温を戻した際、血流が再開することで細胞を傷つける可能性もあります。仮死状態が長いほど、つまり酸素供給の停止時間が長いほど、脳や細胞へのダメージも大きいでしょう。
手術を受けた方の生還を祈ります。