もうひとりの科学的医療の創始者
現代の医療を拓いた人物として忘れてならないのはナイチンゲールです。
彼女のことは「なんか有名な看護婦さん」くらいの認識しかない人も多いかもしれませんが、ナイチンゲールは女性も高い教育を受けるべきという父親の方針で、非常に高度な数学の知識を持っていました。
そして、迷信や思い込みで判断を下すことが多かったこの時代に、彼女は医療の重要な決定は、科学的根拠のある確かな証拠のもとに行われるべきだという信念を抱いていたのです。
ナイチンゲールの生きていた時代の病院は非常に不衛生でした。
従軍看護婦として彼女が赴任した野戦病院では、下水管がつまって汚物があふれかえり、周辺の道端には馬や犬の死骸が放置され、病人を入れ替えてもシーツも取り替えないというような有様だったのです。
ナイチンゲールはこの病院に収容された兵士の高い死亡率の原因は、この不衛生な環境だと考え、徹底的に掃除し、清潔なシーツに取り替え、病院の衛生環境を劇的に改善させました。
これは非常に効果があり、病院に収容された兵士たちの死亡は目に見えて減っていったのです。
しかし軍の上層部は病院の衛生環境改善が本当に重要であるかどうかを信用しませんでした。
そこで、高度な数学の知識を持っていたナイチンゲールは、陸軍の死亡率と病院の衛生環境の関係の統計データを作り、これを証拠として上層部に掛け合ったのです。
この野戦病院では、ナイチンゲールが来る前の兵士の死亡率は40%を超えていましたが、彼女の改革の後には死亡率がわずか2%まで下がっていました。
さらにこの時代、わざわざコストをかけて看護婦を育成するということは無駄だという考え方が主流でした。
そこでナイチンゲールは、2つに分けた患者グループを訓練された看護婦と、素人の看護婦に割り振り、患者の経過が明らかに異なることを統計学的に示したのです。
なのでナイチンゲールを単なる有名な看護婦さんと考えるのは間違っています。
ナイチンゲールは慣習や偏見で物事を判断していた時代の医療に対して、統計学を用いて何が本当に有効で必要なのか示し、現代に繋がる医療の改革を行った人なのです。