正露丸はアニサキスに効くのか?
魚介類に寄生するアニサキスは特に、サバやカツオ、サンマ、アジ、イワシ、イカ、サケなどによく見られます。
お寿司や刺身など、魚を生で食べる文化のある日本ではアニサキスの感染リスクが高く、過去の研究では、日本で報告された食中毒の実に35%が胃アニサキス症となっているのです(Journal of General and Family Medicine, 2021)。
胃アニサキス症は、アニサキスが隠れている生魚を食べた後、数時間から12時間くらいまでに発症します。
これまでアニサキスを死滅させる特効薬は確認されておらず、病院で外科的に摘出する以外に治療法はないとされていました。
ところが2011年に、日本でよく知られる胃腸薬の「正露丸」を飲んだことで胃アニサキス症の症状が和らいだとする症例が2つ発表されました(Hepato-Gastroenterology, 2011)。
そこでは「正露丸の経口摂取により、腹部上部の痛みがわずか数分で鎮静化した」と報告されています。
しかしこの時点では、正露丸がアニサキスに効くことを科学的に示した証拠はなく、実際の効果も不明なままでした。
そこで高知大学理工学部の研究チームは2021年に「正露丸が本当にアニサキスを死滅させうるのか」を検証しています。
正露丸でアニサキスが死ぬことを実証!
チームはここで、細胞の生死判定ができる「トリパンブルー染色」を行いました。
これは死んだ細胞の組織に反応して青色に染まる液体を使った方法です。
実験では、0.1mol/Lの塩酸30mL(空腹時の胃液量とそれに含まれる塩酸濃度に相当)に正露丸3粒(1回の服用量)を溶かし、アニサキスを30分浸しました。
するとアニサキスは活動を停止し、全身が濃い青色に染まることが確認されたのです。
これは正露丸を入れなかったグループには見られなかったため、アニサキスは正露丸によって死滅することが実証されました。
つまり、通常量の正露丸を飲むだけで、体内のアニサキスを殺すには十分であることが支持されたのです。
これは発表当時、非常に話題となりテレビなどでも取り上げられていました。詳しい研究の内容はこちらの記事を参照してください。
この研究から、正露丸は世界初のアニサキス特効薬になりうる可能性が現実味を帯びてきました。
とはいっても、これは試験管内で見られた結果であり、より複雑な環境である人体で効果を発揮するかどうかは、当時の研究では分かっていませんでした。
そこで同チームはSNSを用いた症例調査でその実態を明らかにすることにしたのです。