色が識別できないとは医学的にどういう状態なのか?
私たちの網膜には、明るい場所で色を検知する錐体細胞と、暗い場所で物の形を検知するための桿体細胞という2種類の細胞が存在しています。
この2種類の細胞の性質の違いのせいで、私たちの目は明るい場所では色彩が感知されるものの、暗い場所では色の差異がなくなって形だけがみえるという現象が起こります。
しかし色を知覚する錐体細胞を制御する遺伝子に欠陥がある場合、明るい場所でも特定の色が識別しづらくなるという現象が起こります。
そしてこの欠陥レベルはどの遺伝子にどんな変異が起きているかによって異なり、3万人に1人は世界が完全に灰色の濃淡でしか認識できないといいます。
たとえばCNGA3と呼ばれる遺伝子は色の知覚において非常に重要な役割をしており、この遺伝子に機能不全が起こると色の知覚が全くできなくなり、全てが灰色の濃淡で作られた視覚が形成されてしまいます。
この症状を治す方法の1つが、遺伝子治療です。
遺伝子治療では機能していない遺伝子の代りとなる正常な遺伝子を外部から細胞に供給することで、症状の回復を目指します。
変異したCNGA3を抱えている人々の錐体細胞に対して、外部から正常なCNGA3遺伝子を注入する遺伝子治療が上手くいけば、色の知覚ができるようになる可能性があるのです。
そこで今回、エルサレム・ヘブライ大学の研究者たちは、生まれつきCNGA3に変異を持つせいで灰色の世界に住む大人3名と7歳の子供1名に被験者になってもらい、遺伝子治療を行うことにしました。
実験にあたってはまず、健康な人間の遺伝子から「正常なCNGA3」を切り出して、無害なウイルス(アデノ随伴ウイルス)の遺伝子に組み込みました。
この無害なウイルスは感染すると自らの遺伝子を人間の細胞内部に注入する機能を持っているため、被験者たちの錐体細胞に感染させることで、「正常なCNGA3」を外部から補うことが可能になります。
実験では4人の被験者たちは全員片目の網膜に、このウイルスが入った遺伝子治療薬が注射されました。
結果、遺伝子治療を受けた4人の被験者たちは、注射を受けた目のにおいて赤色を認識できるようになっていることが判明しました。
被験者たちは初めてみた「赤」をどのように感じたのでしょうか?