- 万能細胞(ES細胞)を疑似的なヒト胚(ガストロイド)に変化させることに成功した
- ガストロイドには外胚葉・内胚葉・中胚葉が存在する
- ガストロイドは倫理や法規制から自由であり、実験体として利用できる
胚性幹細胞(ES細胞)は理論上、体を構成する全ての組織に分化する能力を持ちつつ、無限に増殖させることができる万能の細胞です。
イギリス、ケンブリッジ大学の研究者は、この万能性を利用して、ES細胞から「疑似的なヒト胚(ガストロイド)」を創り出すことに成功しました。
この疑似ヒト胚は精子も卵子も必要としないまま受精卵のように成長して、神経系を構成し、初期胎児に似た頭部と尾部を持つ半月状の構造を作りました。
現在、多くの国では受精卵を14日齢以上培養されることが法律で禁止されています。
しかし、今後研究者たちはこの疑似ヒト胚を利用することで、制限なくブラックボックスと化していた人間の発生・発達過程を解明できます。また、様々な薬への実験体として使うことも可能になるでしょう。
さらに、材料に使う万能細胞の遺伝子を事前に書き換えておくことで、遺伝改造を行った疑似ヒト胚を作製できます。
疑似ヒト胚(ガストロイド)は無限の可能性を秘めてると言えるでしょう。
ガストロイドの作成過程
まず材料としての万能細胞(ES細胞)に「Chiroin(カイロン)」を加えます。
カイロンは細胞同士の情報を伝達するシステムを刺激して、バラバラだった細胞を凝集させます。
上の動画では、細胞が凝集して一つの細胞塊に成長していく様子を示しています。
興味深いことに、カイロンの刺激によって凝集した細胞は始原状態になっており、凝集した細胞塊は、あたかも細胞分裂をある程度済ませた受精卵のような振る舞いをはじめます。
そして時間が経過すると、この受精卵モドキは自動的にヒトの発生・発達段階に入り、疑似的なヒト胚(ガストロイド)になります。
上の動画では、受精卵のように丸かった細胞塊が伸長し、頭部と尾部を作っていく様子が示されています。
ガストロイドは時間と共に成長し、72時間後には、体の表皮と神経の元になる外胚葉、内臓の元になる内胚葉、筋肉の元になる中胚葉の基本的な3組織を持つようになります。
上の図は、ガストロイドに生じた外胚葉・内胚葉・中胚葉を色分けして示しています。
また72時間(3日)後のガストロイドを磨り潰し、働いている遺伝子を調べた結果、自然な人間の胚では17~21日齢に働いている遺伝子が活性化していました。
どうやらガストロイドは自然の胚より遥かに早い速度で発生が行われているようです。
ですが今のところ、異常な速さの原因はわかっていません。
20日前後になると、ヒト胚は上の図のような複雑な構造をつくることが知られており、ガストロイドでも表皮の内部では似たような構造が作られていると予想されます。