現状では不完全なシステム
音だけで合鍵を作るとは恐ろしいシステムですが、この計算はかなり複雑で完全ではありません。
研究チームの報告では、6ピンのシリンダー錠には可能性のある組み合わせが58万6584個ありますが、このシステムで特定可能な脆弱性のある形状は56%(33万424個)です。
そして、この33万通りのうち94%の組み合わせについてシステムは10個以下まで候補を絞り込むことができますが、残りの6%の中には15個も候補が出てきたものもありました。
音の推測に脆弱性のある鍵の形状がある一方、音からではうまく推察できない形状もあるようなのです。
さらに一般的に普及している録音装置として、スマートフォンの機能で鍵の音を録音したところ、かなり鍵に接近した状態でなければ、鍵形状推測の音源としては役に立たないこともわかりました。
そして当然ながら、ピンシリンダー錠にしか適用できません。
そのため、現状ではかなり制約が多い鍵破りの方法でしょう。しかし、この鍵の突破方法は、不正な侵入を企む者たちにインスピレーションを与える新しいものです。
今後研究が進み精度が上がっていけば、音だけで合鍵を制作されてしまう危険はかなり上昇するでしょう。
現在も3Dプリンタの普及により、鍵の写真だけで合鍵を簡単に手に入れることが可能になっています。
隠しマイクの設置や、スマートフォンをマルウェアなどでハッキングすることで、鍵を開ける音を盗聴されてしまえば、それで合鍵を作られてしまう可能性は、今後十分考えられるとチームは指摘しています。
まるでスパイ映画にでも出てきそうな話ですが、現在の技術の進歩を考えれば、そうしたリスクが今後高まることは考慮していかなければならない問題でしょう。
この研究は、シンガポール国立大学の計算機学科の研究者Soundarya Ramesh氏の研究チームより報告されていて、論文は未査読の状態ですがテキサス州で開催される最先端の技術に焦点を当てたInternational Workshop on Mobile Computing Systems and Applications (HotMobile 2020)にて発表されます。
論文は現在下記のサイトより閲覧することが可能です。
https://www.gwern.net/docs/technology/2020-ramesh.pdf