必要なのは湿った岩だけ
深海はほとんど光も届かず、低温、高圧で生物に必要となる栄養素を得ることはかなり難しい環境です。
そうした海底の堆積物の下に埋もれている微生物がどのように、生きるためのエネルギーを得ているかははっきりとしていませんでした。
これまで海底にひそむ微生物たちは、海洋から海底へと沈殿してきた有機物質に依存していると考えられてきました。
しかし、新しい研究は、もっと別のシナリオを提案しています。
ロードアイランド大学(URI)海洋学研究科の研究チームは、深い海底に埋もれた古代の微生物群が、自然に発生する放射線の水分解によって生存している可能性を発見しました。
今回、研究チームが調査をおこなったのは、太平洋、大西洋のさまざまなポイントから回収された海底堆積物です。
ここに自然に発生するレベルの放射線を照射したところ、蒸留水に照射した場合よりも、実に30倍近くも多くの水素と酸素が生成されたのです。
この水分解によって発生する化学物質は、微生物の主要な食料とエネルギー源になっていると考えられます。
なぜ、湿った堆積物に放射線が照射された場合、通常より多くの水分解が起きるのかはまだ不明です。
しかし研究者は、「堆積物中に含まれるミネラルが半導体のように振る舞うことで、プロセスが効率化しているのかもしれない」と推測しています。
この発見は、NASAの火星探査機パーサヴィアランスが、火星に着陸したばかりの今の状況で、とてもタイムリーな話題です。
パーサヴィアランスはかつて水を持っていたい火星の岩石を回収して、そこに生命の痕跡を見つけようとしています。
今回の研究は、光が届かない環境でも、湿った堆積物があるだけで、微生物たちはまるで光合成のようなプロセスを再現できることを示しています。
これは地球の海底の調査であると同時に、宇宙のどのような環境で生命が存在できるかの可能性に光を当てているのです。
これまで私たちは、宇宙で生命の存在を探すとき、水とともにエネルギー源となるものも探していました。
しかし、ひょっとすると水だけで十分な可能性もでてきたのです。
海洋堆積物の成分と同じような鉱物は、火星でもいくつか見つかっています。
火星にはかつて水が存在していたこともわかっているため、火星に生命が存在した可能性は今回の発見を考慮すると、かなり高まっていると言えそうです。