空間に直接描かれた光子魚雷の炸裂
空間に直接描かれた光子魚雷の炸裂 / Credit:Brigham Young University(youtube)
technology

CGいらず?「空間に映像を浮かび上がらせる」最新技術が登場

2021.05.11 Tuesday

SF映画で描かれるレーザーブレードの剣や、宇宙戦艦のビームの打ち合いは、CGによって後から画面に書き足されたものです。

しかし、4月6日に科学雑誌『Scientific Reports』で発表された新しい研究は、CGを使わずに現実の空間に輝くビームの映像を描き出しています

これはまだ実験室の限定された狭い空間のみで実現されたものです。

けれど、いずれは空間に浮かぶホログラフィーとインタラクティブな体験ができるようになるかもしれません。

BYU hologram experts can now create real-life images that move in the air(BYU) https://news.byu.edu/byu-hologram-experts-can-now-create-real-life-images-that-move-in-the-air
Simulating virtual images in optical trap displays https://www.nature.com/articles/s41598-021-86495-6

空間に浮かぶ映像

指先に浮かぶ光のリング
指先に浮かぶ光のリング / Credit:Brigham Young University(youtube)

新しい研究は、なにもない空間上に映像を映し出すことを可能にしています。

研究を発表した米国ブリガムヤング大学(BYU)のホログラフィー研究グループは、2018年に画面を通さず空間に映像を描く方法を発見し注目を集めていました。

今回の研究は、その成果を発展させたもので、光トラップディスプレイ(optical trap displays:OTD)と呼ばれる技術を使って空間にさまざまな映像を映し出しています。

「私たちが作成したシーンは本物です。それはCGによる映像ではありません。どの角度から見ても、その空間に存在していることがわかります」

BYUの電気工学教授ダン・スモーリー氏はそのように述べています。

実際に研究チームは、有名なSF映画のシーンを、OTDを使って再現しています。

スタートレックの宇宙戦艦の戦闘シーン。飛び交う光子魚雷はCGではなく直接空間に描き出されている。
スタートレックの宇宙戦艦の戦闘シーン。飛び交う光子魚雷はCGではなく直接空間に描き出されている。 / Credit:Brigham Young University(youtube)

これはスタートレックに登場する宇宙船エンタープライズ号が、敵宇宙船とビームを打ち合っているシーンを再現したもの。

映画の画面ではCGで描かれる光子魚雷も、実際に空間に描き出されています。

打ち出された光子魚雷の炸裂を再現する実験
打ち出された光子魚雷の炸裂を再現する実験 / Credit:Brigham Young University(youtube)

こちらも同様に打ち出された光子魚雷の炸裂を再現しています。当然これもCGではありません。

スターウォーズのヨーダの緑色のライトセーバーが伸びる様子。ライトセーバーもCGを使わずに表現できる
スターウォーズのヨーダの緑色のライトセーバーが伸びる様子。ライトセーバーもCGを使わずに表現できる / Credit:Brigham Young University(youtube)

こちらはスターウォーズのライトセーバー。ヨーダの緑色に輝くライトセーバーが伸びています。

OTDでは、レーザービームが空中の単一の粒子を捕獲し、その粒子を動かして、空中にレーザー照射の軌跡を残すことで空間に映し出しています。

OTDの原理。レーザーが空中の単一粒子を捕獲し、動かしている。私たちはその軌跡を見ている。
OTDの原理。レーザーが空中の単一粒子を捕獲し、動かしている。私たちはその軌跡を見ている。 / Credit:Daniel Smalley ,Scientific Reports(2021)

今回報告されている研究は、特にこのOTD技術を使って、実際に見えているより遠くに映像が映っているように見せる虚像シミュレーションに焦点を当てています。

現在の技術では、限定された非常に狭い空間にしか映像を描くことしかできません。

しかし、透視投影と運動視差を利用して、手前で動くオブジェクトとOTDで描かれた映像の立体的な造形をずらすことで、遠くに映像が浮かんでいるように錯覚されることができるというのです。

透視投影と運動視差を利用して、月が遠い夜空に浮かんでいるように魅せている
透視投影と運動視差を利用して、月が遠い夜空に浮かんでいるように魅せている / Credit:Brigham Young University(youtube)

これはその実験の様子です。

どうでしょうか? 月は遠い夜空に浮かんでいるように見えるでしょうか?

研究者はこの運動視差を使ったトリックによって、理論上はOTDの映す映像を実際より遥かに大きく見せたり、非常に遠い位置に映すなどの遠近感を錯覚で作りだせると語っています。

ただし、現在この方法では単眼視点でしか表現できないので、まだまだ改良の余地があるようです。

いずれにしても、空間に映像を映すというSF的な技術も、かなり現実的なものに進化しつつあるようです。

研究チームは、OTDで映し出したキャラクターを、指の上で歩かせ、そこから飛び降りるという表現にも挑戦しています。

OTDで映したキャラクターを指の上で歩かせる実験
OTDで映したキャラクターを指の上で歩かせる実験 / Credit:Brigham Young University(youtube)

この実験は仮想画像と人間の相互作用を示すことに成功しています。

研究者たちはこの成果から、いずれ人間と同じ空間に共存するホログラフィックのような仮想オブジェクトと対話できる、没入型体験も可能になるだろうと語っています。

部屋でホログラフィーのキャラクターと対話できるなんて日もそのうち来るかもしれません。

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