赤ちゃんの遺伝子をウイルスで書き換え命を救うことに成功!
免疫を持てなくするアデノシンデアミナーゼ欠損症(ADA-SCID)は、致命的な遺伝性疾患です。
この遺伝病を抱える子どもは感染症に対して全く無防備であり、学校に通ったり、友達と遊んだりといった日常的な活動でさえ命を奪う感染症を引き起こしてしまいます。
そのため発見が遅れるなどの原因で未治療だった場合、生後2年以内に致命的な状態に陥ります。
治療のためにこれまで主に行われてきた方法は、他人の免疫系を取り込むための骨髄移植です。
骨髄には免疫系を形成するにあたって中心的な役割をする幹細胞が存在するため、骨髄ごと移植を受けることで、赤ちゃんの体に免疫系を作り直すことができます。
しかし残念ながら骨髄移植の効果は十全とは言えず、生涯に渡って大量の抗生物質と、移植された骨髄細胞を赤ちゃんの体が拒絶しないための措置(免疫抑制剤など)が必要になります。
不具合を起こしている遺伝子を、他人から移植した細胞で補おうとする手法には、どうしても限界があったのです。
そこで今回、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究者たちは、赤ちゃん本人の遺伝子を書き換える実験的な手法を実施しました。
対象となったのは、アデノシンデアミナーゼ欠損症を持って生まれた50人の赤ちゃんです。
研究者たちは、疾患を持つ赤ちゃんたちの骨髄から幹細胞を取り出し「レンチウイルス」という無害なウイルスを使って、不足していた遺伝子を細胞内に運び込み、再び赤ちゃんの骨髄へと戻しました。
結果、免疫系がなかった50人の赤ちゃんのうち48人で免疫系が構成されるようになり、その後は健常者とほぼ変わらない暮らしを送ることができるようになりました。
この結果は、赤ちゃんたちに不足していた遺伝子を、ウイルスを使って外部から供給する試みが、成功したことを意味します。
しかし、ここまで劇的な効果をもたらした「レンチウイルス」とは、何なのでしょうか?
人間の細胞を的確に認識して感染し、手際よく(副作用も少なく)遺伝子を潜り込ませる様は、普通ではありません。
それもそのはず…現在最も一般的に利用されているレンチウイルスはかつて「HIV-1」と呼ばれた存在だったからです。