生後半年以内の赤ちゃんには、逆向マスキングが発生しない
資格における脳のフィードバック処理は、近年の研究で私たちの安定した知覚のために重要なものであるとわかってきています。
しかし、こうした能力の発達過程についてはほとんどわかっていません。
そこで、今回の研究チームは生後1歳未満の乳児を対象にして、逆向マスキング現象が起きるかどうかを調査しました。
実験では、顔写真を短時間提示した後、周囲に4つの点を表示して逆向マスキングが起きるかどうかを調べました。
ここでは、マスキングありとなしの2種類のパターンを試し、赤ちゃんの注視時間を測定しました。
もし、逆向マスキングが発生していない場合、赤ちゃんの注視時間は長くなると予想されます。
また、最初から顔を表示せず、4つの点だけを表示した場合と、顔を表示した後マスキングした場合の比較も行われました。
もし、逆向マスキングが発生している場合、非マスキング時のみ、視覚記憶で顔の残像のようなものが見えて注視時間が伸びるはずです。
それ以外では、すべて顔写真は消えて見えるので、注視時間は変わらないと考えられます。
実験の結果、生後7~8カ月の赤ちゃんでは、予想通り非マスキング条件で注視時間が伸びましたが、それ以外の条件では注視時間に差がありませんでした。
ところが、生後3~6カ月の赤ちゃんでは顔が最初から表示されなかった場合のみ注視時間が減り、それ以外の条件では注視時間が同じになったのです。
つまり、これは生後6カ月以内の赤ちゃんは、逆向マスキングが発生しておらず、最初に顔写真が表示された後は、どの条件でも消えた顔写真の残像が見えていたことになります。
つまり、生後6カ月以下の低月齢児の赤ちゃんは、7カ月以上の高月齢児の赤ちゃんや大人では知覚できないものが知覚できていたことになるのです。
こうした結果が出る背景は、さきほども説明した、安定して世界を知覚するためのフィードバック処理が、低月齢児の赤ちゃんにはまだ備わっていないためだと考えられます。
なんだか、生後間もない赤ちゃんの方が知覚能力が高いように感じてしまう結果ですが、フィードバック処理はぼやけていたり、一部が欠けていたりするような曖昧な視覚像を、安定して知覚するために獲得された能力と考えられています。
生後間もない赤ちゃんはそのような安定した視覚能力がまだ備わっていないため、私たちよりも世界を曖昧に捉えており、そのため、本来私たちでは見ないものがずっと見えているような状態になっているのです。
赤ちゃんは何もない場所をじっと見つめているときがありますが、それは私たちではもう知覚できなくなった瞬間的な残像を、じっと見つめているだけなのかもしれません。