一瞬だけ見えたものに気づかない「逆向マスキング」現象
昔テレビではフライングゲームという一瞬だけ見えたものを当てるゲームがありましたが、私たちは一瞬だけ見えたものでも、それが何なのかだいたい認識することができます。
しかし、一瞬だけ物体が見えた直後に、同じ位置に他のものを提示されると、最初に見えたものが何だったのかわからなくなり、その存在に気づくことすらできなくなります。
これは実験心理学の分野で「逆向マスキング(backward masking)」と呼ばれている知覚現象です。
これは前に見えたものを覆うような物体でなくとも、ただ四隅に点を打っただけの中途半端な視覚情報でも発生してしまいます。
なぜこのような現象が起きるかについては、未だ明確な解答はありませんが、いくつか説が存在します。
その1つが視覚のフィードバック処理の妨害仮説です。
私たちがものを見たとき、眼から脳の視覚領域へ情報が送られます。
私たちは見たものが何であるのか理解するために、この情報を高次の脳領域へ順序立てて(ボトムアップ)処理していきます。
しかし、このとき私たちの脳は高次の領域から低次の領域へと「フィードバック処理」も行っていることがわかっています。
フィードバック処理が行われる理由は、私たちが安定的にものを知覚するためだと考えられています。
1種の見たものの答え合わせをしているような状態でしょう。
瞬間的に見えて、すぐにその対象が消えてしまった場合、見たものの情報は視覚短期記憶として格納されます。
このため、私たちは何を見たのか記憶を頼りに推測することができます。
しかし、瞬間的に見えたもののあとに別のものが見えてしまうと、フィードバック処理が妨害されて、最初に何を見たのかわからなくなってしまうのです。