「しっぽ」のないヒトや類人猿には共通の遺伝子変異が起きていた
現在地球上に生きる霊長類は、外見によって大きく2種類にわけることができます。
1つは尻尾を持つ多くのサルたち、そしてもう1つは人間やチンパンジーなどの「しっぽのないサル」です。
人間やチンパンジーなどの類人猿の尻尾は退化しており、骨盤に付着した尾てい骨になごりを残すのみになっています。
しかし奇妙なことに尻尾の喪失が、どのようにして、なぜ起きたのかは、いままで謎のままでした。
そこでニューヨーク大学の研究者たちは、6種類の尻尾のない類人猿のDNAを9種類の尻尾のあるサルのDNAと比較し、両グループ間の違いをさがしました。
結果、尻尾のない類人猿は「TBXT(ブラキュリー)」と呼ばれる遺伝子に共通の変異が起きていることが確認されます。
TBXT遺伝子はマウスなどの脊椎動物において、尻尾や背骨の形成にかかわる重要な遺伝子として古くから(1923年ごろから)知られている有名な遺伝子です。
分析の結果、尻尾のない類人猿はどの種も、TBXT遺伝子の中央部に300個ほどの遺伝子文字からなる同じ「DNA断片(Alu要素)」が、同じ位置に混入していたと判明します。
(※Alu要素とは自己複製のみを目的とした非ウイルス・非生命の配列情報のみに依存する存在(トランスポゾンの一種)として知られており、生命の突然変異を促す要因や遺伝子疾患の原因とされています)
同様の「DNA断片」の挿入は、人間のTBXT遺伝子の同じ場所にも起きていました。
そのため研究者たちは、この紛れ込んだ「DNA断片」のせいでTBXT遺伝子の機能が変化して、尻尾の喪失につながったと考えました。
そしてすぐに、仮説を証明する実験にとりかかります。