善意の寄付だけではない?「怒り」から生まれる新しい動機とは?
寄付とは一般に、他者の利益や社会の福祉を考えた「善意の行動」とされてきました。
また「自分の利益」を考えて寄付を行う場合もあるでしょう。
これまでの研究でも、寄付の動機は「共感」や「感謝」、「自分のイメージ向上」や「税制優遇」など、利他的・自己利益的な理由に分類されていました。
しかし、2016年のアメリカ大統領選の結果を受けて起こったある出来事が、研究者たちの目を引きます。
副大統領に当選したマイク・ペンス氏は、妊娠中絶に反対する強硬な姿勢で知られていました。
ところがその直後、なんと8万件を超える寄付が、彼の名義で中絶支援団体「Planned Parenthood」へと行われたのです。
結果として、ペンス氏の自宅には、「マイク・ペンスさん、ありがとうございます」と書かれた寄付通知が大量に届くことになりました。
つまり、寄付を行った人々は、政治的・道徳的抗議として寄付を使ったのでした。

これが、ミルン氏らが着目した「報復的慈善活動」の出発点となりました。
研究チームはこの行動の動機や仕組みを明らかにするため、まずインタビューを実施しました。
報復的寄付を行った人物や、その対象となった人々への聞き取りを通じて、共通する3つの動機を見出しました。
- 寄付対象(つまり攻撃対象)への強い道徳的非難(悪意ある不正行為の認識)
- 怒り・嫌悪・軽蔑といった強烈な感情の発生
- 相手にダメージを与えるという罰の意図
次にチームは、より広範な実社会のデータを使ってこの仮説を検証しました。
2022年、カナダで発生した「フリーダム・コンボイ」(ワクチン義務化に反対するトラック運転手による抗議運動)において、支援団体への寄付が急増。
ところが政府の介入により、クラウドファンディングサイト「GoFundMe」でのキャンペーンが強制停止されました。
その直後、寄付者たちは新たなプラットフォーム「GiveSendGo」に移行し、短期間で数百万ドル規模の寄付が集まりました。
この寄付データ10万件超を分析したところ、「GoFundMe」や政府に対する怒りのコメントを書いた寄付者は、他の人より平均23ドルも多く寄付していたことが分かりました。
怒りの表現(「裏切り」「検閲」「腐敗」など)を含む投稿の多くが「モラルに反する抑圧」として認識されており、ここにも「報復」の意図が明確に表れていました。
この2つの初期研究によって、「怒り」や「道徳的違反の認識」が寄付動機となる現象が、定性的・定量的に裏付けられたのです。