ルンペルシュティルツヒェン効果とは?
この研究の背景には、医療者が長年共有してきた経験的な疑問があります。
「なぜ診断名を伝えるだけで患者は安堵し、症状が軽くなったかのように感じるのか」
レビノヴィッツ教授とアフタブ氏は、現場で繰り返し観察されてきたエピソードや、既存の調査・臨床研究・レビューを参照しながら、この「診断名そのものが癒しになる」効果を概念的に整理しました。
そして、この不思議な現象を「ルンペルシュティルツヒェン効果」と名付けたのです。
その名前の由来は、グリム童話『ルンペルシュティルツヒェン(Rumpelstilzchen)』にあります。
物語では、粉引き屋の娘が王に「藁を金に紡げ」と迫られ、命の危機に陥ります。
そこへ現れた小人は、娘を助ける代わりに将来生まれる子どもを差し出す約束をさせます。
後に娘が王妃となり子を授かると、小人が現れて子を要求しますが、「3日以内に私の本当の名前を当てられれば許す」と条件を出します。
必死に探し回った末、娘は「ルンペルシュティルツヒェン」という名を突き止め、呪縛から解放されます。
この童話には、「名前には対象を支配する力がある」という世界的に広がる考えが込められています。
名前を知ることで不可解なものを説明し、コントロールできるようになる。
レビノヴィッツ教授らは、診断名が持つ心理的な力も同じ原理で説明できると考えました。
実際、この現象はADHD、緊張型頭痛、耳鳴り、慢性疲労症候群、不眠症、過敏性腸症候群など、幅広い診断で臨床的に観察されています。